『レストラン「ドイツ亭」』は映画のようなアウシュヴィッツ小説2021年05月05日

『レストラン「ドイツ亭」』(アネッテ・ヘス/森内薫/河出書房新社)
 今年(2021年)1月に翻訳が出たアウシュヴィッツ絡みのドイツ小説を読んだ(原著は2018年刊行)。

 『レストラン「ドイツ亭」』(アネッテ・ヘス/森内薫/河出書房新社)

 オビの惹句だけでおよその展開が読める小説ではあるが、読み始めると引き込まれ、映画を観ているような感覚で一気に読了した。作者(女性)は1967年生まれの脚本家で、本書が最初の小説だそうだ。

 この小説は、強制収容所でのユダヤ人虐殺に関わった関係者を裁いたフランクフルト・アウシュビッツ裁判(1963年~1965年)を題材にしている。ニュルンベルク裁判やアイヒマン裁判の後、ドイツ人自身によってドイツ人を裁いた裁判である。

 史実をベースにしたフィクションで、時代設定は裁判開始前から結審までの1960年代前半、主人公はレストラン「ドイツ亭」の娘、ポーランド語とドイツ語の通訳である。急遽、裁判の通訳を依頼された主人公と婚約者や家族をめぐって過去が浮かび上がってくる。何も知らなかった主人公が、裁判における証言を通じてホロコーストの歴史に向き合っていく物語である。

 1960年代は冷戦時代で、ドイツは東西に分かれていて、アウシュヴィッツのあるポーランドは共産圏である。そんな時代に、この小説の裁判関係者たちはアウシュヴィッツ訪問を果たす。私は4年前にアウシュヴィッツ見学をしているので、このシーンは身に迫ってきた。

 フィクションではあるが、あり得たかもしれない市井人の苛酷な状況を描出したこの小説は、多くの若い人々に読み継がれるべきメッセージを提示している。

 とは言え、あざとい小説だなという気もする。この題材が提示しているものをノンフィクションとして読みたいという気分になる。フランクフルト・アウシュビッツ裁判に関する一般向けの本はないのだろうか。

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