重い世界史講義全70回を読了、頭が疲れた2021年04月08日

『世界史との対話:70時間の歴史批評(下)』(小川幸司/地歴社)
 『世界史との対話:70時間の歴史批評(下)』(小川幸司/地歴社)

 ようやく『世界史との対話(下)』を読み終えた。高校で週2回の授業なら年70回になるそうだ。高校教師による本書は70回の講義を上・中・下の3冊にまとめている。 上巻 が24回分、 中巻 が23回分、下巻が23回分と均等配分なのに巻を追うごとに厚くなる(上巻334頁、中巻382頁、下巻474頁)。近現代を語る下巻は上巻(古代・中世)の1.4倍の厚さである。

 下巻が厚いのは近現代になるに従って講義に熱が入ってきて、現代社会を歴史を通して考えるということが深化されていくからである。国民国家とナショナリズム、格差の拡大など現代の課題の淵源が世界史から浮かび上がってくる講義で、著者の熱い思いが伝わってくる。

 下巻冒頭の第48講はドーデの『最後の授業』とアルザスの話で、とても面白い。小学生の頃に読んで感銘を受けた『最後の授業』が、実はいろいろ問題がある作品だとは仄聞していたが、アルザスという地の二転三転の顛末には驚いた。『「国民国家」がかくも人々を翻弄するものかということに愕然とせざるをえません』という著者の感慨が印象深い。

 ナチス台頭のドイツや太平洋戦争に突き進んだ日本などを例に、状況追随的な思考を積み重ねていくうちに引き返せない事態になるとの指摘は、まさに歴史から学ぶべき重要事項だろう。他にも、興味深い考察満載の講義である。

 下巻最後の第70講のタイトルは「トリニティからチェルノブイリとフクシマへ」である。トリニティはマンハッタン計画における史上初の原爆実験場「トリニティ・サイト」のことである。トリニティ(三位一体)などと名付けたとは知らなかった。著者は、作家・林京子(長崎の被爆者)がトリニティ・サイトを訪れたときの文章を引いて、人類史・地球史に立ち返った上で現代社会に生きる我々の課題を提示している。

 頭が疲れる重い世界史講義全70回だった。