18世紀の雰囲気が伝わってくる『ギボン自伝』は面白い2021年01月10日

『ギボン自伝』(E・ギボン/中野好之訳/筑摩書房)
 分厚い文庫本全10冊の『ローマ帝国衰亡史』(E・ギボン/ちくま学芸文庫)を1年がかりで読んだのは6年前だ(読後感を 前半 後半 に分けてブログに書いた)。

 この長大な史書を読み終えたとき、著者ギボンの自伝も読みたいと思った。その後、ボチボチと『衰亡史』を読み返したりローマ史関連本を読んだりしていて、この年頭、やっと6年前の思いを果たした。

 『ギボン自伝』(E・ギボン/中野好之訳/筑摩書房)

 18世紀英国のカントリー・ジェントルマンの様子が伝わってくる面白い伝記である。『衰亡史』でギボンの皮肉でオチャメな文章に接してきたから、著作で大成功した知り合いのオジサンのやや自慢げな回顧談を聞いている気分になる。

 この翻訳書の自伝本文は前半の約6割で、残り4割は註釈、付記、解説などである。訳者による30頁以上の「解題―「ギボン自伝」の成立について」は力がこもっていて興味深い。本書には挟み込み付録(訳者と佐伯彰一の対談)もあり、ギボンを肴にした16頁にわたる対談が話題豊富で面白い。オマケが充実した本である。

 この自伝を読むと、ギボンが幼少の頃からの読書家だったことがよくわかる。16歳でカトリックへ改宗し翌年にはプロテスタンに再改宗した経緯もわかる。ラテン語、フランス語、ギリシア語をこなしている。基本的には書斎と社交がメインの人だが兵役も経験しているのが意外だった。もっとも興味深いのは、やはり『衰亡史』執筆にまつわる話である。

 訳者の中野好之氏は解題で次のように述べている。

 「この作品は決して「エドワード・ギボン回想録」 The Memoirs of Edward Gibbon ではなくて「ローマ帝国史家の物語」 The History of the Historian of the Roman Empire と名づけられるものだ(…)「ローマ帝国史家」という呼称はこの人物が世間という観客に対して現れる舞台において自分の役柄を示すために着用する仮面、ペルソナに他ならない。ギボンはかくて「ローマ帝国衰亡の歴史」 The History of the Decline and Fall of Roman Empire と並ぶ第二の歴史書をその最晩年に書いたのだ(…)」

 そんな『ギボン自伝』だから、『衰亡史』の読者にとって面白くないわけがない。

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