「国民・民族」は近代の産物と説く『想像の共同体』2020年09月24日

『想像の共同体:ナショナリズムの起源と流行』(ベネディクト・アンダーソン/白石隆・白石さや訳/書籍工房早山)
 年初に購入し、早く読まねばと気がりだった次の本を秋口になってやっと読んだ。

 『想像の共同体:ナショナリズムの起源と流行』(ベネディクト・アンダーソン/白石隆・白石さや訳/書籍工房早山)

 今年の1月、NHK Eテレの「100分deナショナリズム」という番組で社会学者の大澤真幸氏が本書を紹介しているの観て興味を抱き、購入した。オビに「ナショナリズム研究の今や新古典」とある。スタンダードな名著のようだが、私はこのテレビ番組を観るまで知らなかった。

 書名から「ナショナリズムとは『想像の共同体』が作り出したもの」と解き明かした書だと想像でき、吉本隆明の『共同幻想論』に通じるものも感じる。あえて読まなくても主旨を了解した気にもなるが、やはり中身を確認したいと思った。

 この本、面白いのだが、思った以上に難儀であった。およその論旨はつかめるが、事例を理解するには東南アジアや南北アメリカの近代史の知識が必要である。日本の事例では丸山真男、北一輝の論説や平家物語を引用している。日本に関しては何とかなるが、馴染みのない国々の未知の著作の引用には手こずる。やや凝ったレトリックも多く、私には容易に読み解けず、立ち止まって辞書やネット検索のお世話になることも多かった。

 「国民(nation)」とは18世紀以降に出現した「想像の共同体(imagined communities)」であるということを、南北アメリカ、ヨーロッパ、東南アジアなどの歴史を事例に説いている。この「想像の共同体」が出現する契機を、出版資本主義による俗語の国語化や宗教の権威の衰退で説明していているのは納得できた。

 「国民」が最初に現れたのはヨーロッパでなく、植民地だった南北アメリカだという指摘は意外だった。イギリスからの北米の独立、スペインからの中南米の独立が「国民」を生み出し、それがフランス革命以降のヨーロッパにも広がる。著者は明治以降の日本も事例に取り上げているが、最も注力しているのはオランダから独立するインドネシア、フランスから独立するインドシナ(ヴェトナム、カンボジア、ラオス)の事例である。意外な事例だが読めば納得でき、興味がわいた。

 シンプルなことを明解に説明した本だろうとの予断を裏切る多層・多様な内容で、十全に理解できたわけではない。いずれ、じっくりと再読したいと思う。

 先日読んだ『シルクロード世界史』(森安孝夫)で、森安氏が「西欧の歴史の冒頭にギリシア・ローマ文明をもってくるのはフィクションであり、日本史を中国古代の殷周時代から説くのに等しい」と述べていた。そのようなフィクションは、近代になって発生した「国民・民族」が、あたかも「眠りから覚めた」ようなふりをして作り出した「記憶のねつ造」に近いものだと思われる。頭を整理してよく考えてみたいテーマである。