『シルクロード』を読んで重層的歴史地図がほしくなった2020年09月09日

『シルクロード』(長澤和俊/講談社学術文庫)
 中央ユーラシア史関連の概説書を何冊か読んだが、この地域のゴチャゴチャはなかなか頭に定着しない。情けない頭の中を少しでも整理できればと思って、次の本を読んだ。

 『シルクロード』(長澤和俊/講談社学術文庫)

 1993年刊行の文庫オリジナルの概説書で、大学での「内陸アジア史」の講義ノートを底本にしているそうだ。紀元前から現代に至るシルクロードの歴史を網羅的に解説した教科書的な本で、知識の整理に適している。

 中央ユーラシアの歴史を東西交渉という視点から年代別に概説し、青銅器の時代から現代まで、人やモノの移動が続いてきたことを語っている。

 シルクロードの西端といえば、普通はローマを想起するが、本書の「第11章 イスラム世界の成立と展開」の製紙法伝播の解説を読んで、西端はモロッコ、イベリア半島といえることに気づいた。中国からイスラムに伝わった製紙法は北アフリカを経由してイベリア半島からヨーロッパに入っている。この章では、バグダードでは9世紀にギリシアの古典文献のアラビア語訳が刊行されていることを述べ、ヨーロッパより5世紀早くルネサンスが展開したと指摘している。

 中央ユーラシア史で苦労するのは地名である。同じ場所が自称・他称などさまざまな呼び方をされることが多い。現地のカタカナ名と中国の漢字名があり、時代によって変化するし、そこを支配した部族名が地名のように使われることも多く、部族は時代とともに移動するので混乱する。

 そんなわかりにくい場所のひとつがバクトリアである。本書はバクトリアについてかなり詳しく説明していて、大月氏、大夏、トカロイ族、吐火羅、トハリスタンなどとの関連が多少は整理できた。

 だが、本書にもっと多くの歴史地図が挿入されていればと思った。中央ユーラシアの歴史をイメージするには全地域を一望できる年代ごとの地図が必要である。紀元前から現代までの、少なくとも100年おき、できれば30年おきぐらいの地図があればうれしい。どこかにそんな歴史地図がないだろうか。