半世紀前の『スウィフト考』(中野好夫)を読んだ2020年06月13日

『スウィフト考』(中野好夫/岩波新書)
 半世紀前の1969年6月に刊行された次の新書を読んだ。

 『スウィフト考』(中野好夫/岩波新書)

 『ガリバー旅行記』の作者スウィフトに関する評伝風エッセイである。古い新書を手にしたのは、朝日新聞夕刊で昨日(2020年6月12日)から、柴田元幸氏の新訳『ガリバー旅行記』の連載が始まったからである。新聞全面の毎週金曜連載で、完結には1年半ぐらいかかると思われる。いま、何故ガリバーなのかはわからないが、18世紀の風刺小説の新訳を21世紀の新聞が連載するのは面白い企画だ。

 私がガリバーの完訳(中野好夫訳)を読んだのは、ガリバー来日300年記念の2009年だった。これが面白かったので古本で『スウィフト考』を入手したものの、未読のままだった。新聞連載予告の記事で未読を思い出し、あわてて古い新書を読んだ。

 私たち団塊世代にとって中野好夫はスキンヘッドの行動する文化人で、印象深い存在だった。『スウィフト考』は岩波の『図書』に連載した軽いコラム風の記事をまとめたもので、とても読みやすい。

 随所に刊行当時(1969年)の世相を反映した表現があり、その時代を大学生として過ごした私には、そんな些細な箇所を面白く感じた。中野節とも言える闊達な表現も楽しい。

 本書を読んで、スウィフトとアイルランドの興味深い関係を知った。スウィフトはアイルランドのダブリンで生まれ、その地で没している。しかし、アイルランド人ではなくイングランド人である。青年時代はロンドンで過ごしており、その地での立身出世を志していたが果たせず、47歳で俗界での栄達の望みを絶たれ、ダブリンの主席司祭がついの椅子になる。著者は、当時のアイルランドを日本占領下の朝鮮や戦後の沖縄になぞらえている。わかりやすい例えだ。

 スウィフトはアイルランド人が好きではなかったが、アイルランド在住のイングランド人としての言論活動によって「アイルランドの愛国者」という皮肉な存在になる。面白い話である。

 また、本書によって、スウィフトがニュートン嫌いになった由縁が分かったし、あの幼児人肉食を提案する奇怪な短篇の背景を知ることもできた。

 中野好夫の語るスウィフトは謎多き風刺作家、老残の人であるが、著者がスウィフトに惹かれているのはわかる。「厄介な爺さん」「アクの強いおいぼれ坊主」などの表現は著者の姿に重なってくる。

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