ついに小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』を読了したが…2020年05月10日

『黒死館殺人事件(上)(下)』(小栗虫太郎/講談社文庫)
 コロナ籠城を機の「読みかけ放置本退治」で、夢野久作の『ドグラ・マグラ』に続いて小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』を読んだ。

 『黒死館殺人事件(上)(下)』(小栗虫太郎/講談社文庫)

 『ドグラ・マグラ』を読了した後、『ドグラ・マグラ』、『虚無への供物』(中井英夫)、『黒死館殺人事件』が三大奇書と呼ばれていたことを思い出した。『虚無への供物』は40年以上昔に引きこまれるように読んで感動した。『黒死館殺人事件』は40年程昔、講談社文庫に収録されたのを機に購入して読みかけたが途中で放り出した。思った以上に読みにくかった記憶がある。

 『ドグラ・マグラ』を読了したので『黒死館殺人事件』も片付けようという気になり、古びた文庫本を読み始めた。

 昔挫折した記憶があるので、今回は気合を入れて冒頭の序編(14頁)を丁寧に2回読んでメモを作成した。序編でこの小説の舞台と登場人物の概要が語られているからである。黒死館という館とその主・降矢木家の歴史年表、登場人物リスト、アイテム一覧などを整理したメモは、そこそこの分量になった。黒死館が建設されたのは明治18年(1885年)、この物語の事件発生が昭和8年(1933年)(登場人物の年齢で推定。この小説が『新青年』に連載されたのは昭和9年)である。黒死館は築48年の古城のような館で、その48年間にもいろいろあり、降矢木家の始祖は天正遣欧使節の一人がメディチ家の隠し子との間にもうけた子という設定なので、400年の歴史を視野に入れなければならない。

 このメモで、物語世界に没入する準備をして読み始めたが、やはりこの小説は難物だった。衒学趣味のミステリーだとは覚悟していたが、その衒学が尋常でない。登場人物たちの会話は偏執狂に近い衒学的な比喩と西欧古典引用の応酬である。その衒学部分が事件のトリックにも絡んでくるので、わけがわからなくなってくる。ギャグかパロディの一歩前のような会話の連続で、芝居がかっている。芝居を観ている気分で読み進めた。

 この衒学部分の大半を理解できれば面白いのだろうが、そうは行かなかった。読了はしたが、堪能できたとは言えない。歯が立たなくて評価不能という気分である。いつの日かこの小説を堪能してみたいという気分にさせられるので、妖しい魅力があるとは思う。確かに奇書である。