澁澤龍彦のツッコミが面白い『私のプリニウス』2020年01月18日

『私のプリニウス』(澁澤龍彦/河出文庫)
 雑誌連載中のヤマザキマリ、とり・みき合作漫画『プリニウス』は単行本が出るたびに購入して読んでいる。だが、プリニウスが著した膨大な『博物誌』を読む根性はない。で、手軽そうな澁澤龍彦の『私のプリニウス』を読んだ。

 『私のプリニウス』(澁澤龍彦/河出文庫)

 『博物誌』の記述をランダムに紹介し、それに著者がコメントを付したもので、とても面白い。『博物誌』を拾い読みした気分になり、澁澤龍彦の目を通して『博物誌』の破天荒な面白さが伝わってくる。

 ヴェスヴィオ火山噴火で亡くなったプリニウスは甥のプリニウス(政治家)と区別するために大プリニウスと呼ばれるが、まさに「大」を付すにふさわしい該博でおおらかな大人物に思えてくる。

 澁澤龍彦のツッコミの一部を引用すれば以下の通りである。

 「なんとまあ、見てきたような嘘を書くものだろうかと、私たちはつくづくあきれてしまう。けつを捲っているのか、とぼけているのか、それとも本気で信じているのか、だれにも分からない。なんという無責任! すでにこれは文学である。」

 「必ずしも神秘な現象を信じる神秘主義者ではないが、何によらず神秘なことが大好きという、二十世紀の私たちの神秘好きの心理に、案外、プリニウスは近かったのかもしれない。」

 「このプリニウスの世界は、すでに『不思議の国のアリス』の世界に限りなく近づいているといってもよいかもしれない。」

 「プリニウスの基調はペシミズムである。こんなに好奇心旺盛な、こんなに逸話好きな、こんなに勤勉な文筆家が、どうしてペシミスティックな思想の持主だったのかと、ふしぎな気がするくらいである。」

 「こんなふうに死の兆候やら死の例をずらずら書きならべはじめると、とたんにプリヌウスはペシミズムなんか吹っとばして、またもや書くことに熱中するようになる。(…)よくもまあ、ずらずらと書きならべたものである。こういうところにこそ、プリニウスの本領が遺憾なく発揮されていると考えるべきだろう。もはやここにはペシミズムの基調は消えてしまっている。すでに作者は死の蒐集家になってしまっているからだ。」

 ツッコミの数々から、澁澤龍彦がプリニウスに魅せられていたことがよくわかる。