絵で読む『カルタゴの興亡は『サランボー』の副読本になる2019年09月29日

『カルタゴの興亡:甦る地中海国家』(ズディヌ・ベシャウシュ/森本哲郎監修/「知の再発見」双書/創元社)
 創元社の「知の再発見双書」は「絵で読む世界文化史」と銘打ったコンパクトな図鑑風の翻訳書シリーズである。写真や図がメインなので、短時間で楽しく読了できる。この双書のカルタゴ本を読んだ。

 『カルタゴの興亡:甦る地中海国家』(ズディヌ・ベシャウシュ/森本哲郎監修/「知の再発見」双書/創元社)

 カルタゴ興亡史の概説と思って読み始めたが、興亡史の解説は第1章で終了し、以下の5章はカルタゴ発掘に関わる話である。

 ローマによる徹底的破壊でBC146年に消滅したカルタゴは、2世紀にはローマ属州の大都市として甦り、西ローマの衰亡期にはアフリカに侵入したバンダル族の首都となる。それもビザンティン帝国に攻め落とされ、その後にはイスラム教徒に征服される。そんな歴史の多層に埋もれたカルタゴの発掘は容易ではない。

 カルタゴ遺跡の調査・発掘はすでに11世紀から始まっているが、それから千年ほどの間に多くの物が持ち去られたそうだ。本書によって、発掘が破壊でもあると再認識した。

 本書で驚いたのは、フローベルの『サランボー』に関して多くのページを費やしている点である。この小説読了の直後に手にしたので大いに楽しめた。

 本書の冒頭9ページは『サランボー』の9葉のカラー挿絵で埋められている。本文中にも多くの挿絵が載っていて、小説の引用もあり、フローベルのカルタゴ訪問にも言及している。この小説の影響は強く、カルタゴ遺跡にはサランボーと呼ばれる聖域があるそうだ。それは「幼児犠牲」が行われたとされる場所である。

 フローベルが『サランボー』で描いた「幼児犠牲」を本書は批判的に検討している。発表当時から「フローベルは、カルタゴに敵意を抱いているギリシア・ラテンの作家の文献を信用しすぎている」との非難や反発があったそうだ。この問題に関しては考古学的な検証も進んでいるが、未だに結論は出ていない。『通商国家カルタゴ』(栗田伸子・佐藤育子)でも幼児犠牲に関する考古学研究の現状を「賛否両論ある」と紹介していた。