ロバート・アイク翻案の『オレステイア』に感心2019年06月12日

 新国立劇場中劇場で『オレステイア』(原作:アイスキュロス、作:ロバート・アイク、演出:上村聡史、出演:生田斗真 他)を観た。ギリシア悲劇を英国の若い作家が翻案した舞台である。

 チラシの印象で設定を現代に変えた舞台を想像していたが、そう単純ではなかった。シンプルな舞台装置はややや抽象的な空間を構成している。時代を特定しがたい物語世界と現代と思われる世界とを往来する舞台だった。時間を超越した舞台に、芝居を上演しているリアルタイムの時間が流れ込んでくる仕掛けになっている。

 そんな不思議な舞台に確かにギリシア悲劇の空間を感じることができた。新国立劇場中劇場は客席が扇形の階段になっていて「中劇場」と言っても客席は千ぐらいはあり、ギリシアの屋外劇場の雰囲気もある。青空の下ではないが、かすかに古代の空気を感じた。

 私は昼の部に行ったが開演13時で終演は17時20分、途中20分の休憩が2回入るが実質3時間40分とかなり長い芝居である。でも退屈はしなかった。古代ギリシアの人々はもっともっと長い時間を観劇に費やしたのだと思う。

 観劇の直前にアイスキュロスの『オレステイア三部作』を読んでいたので、この舞台によってアイスキュロスの世界への理解が深まった気がした。と言っても、テイストは原作とかなり異なる。

 原作ではさほどに感じなかった「戦争」と「家族」がこの舞台では印象深い。いつの時代にも重要な普遍的テーマだと再認識した。原作では実在の人物であるオレステイアの姉エレクトラ(エレクトラ・コンプレックスの元になった人物)をオレステイアの心の中にだけ存在する幻想に変更しているのには驚いた。作家の才能を感じる。

 「エレクトラは幻想の存在」という点をふくらませれば、より興味深い芝居になりそうに思えるが、それでは原作からかけ離れすぎてしまうだろう。ギリシア悲劇にインスパイアされる作家はいつの時代になっても存在することを確認し、2500年の時間の長さと短さを感じた。

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