『はじめて読む人のローマ史1200年』には歴史研究のワクワク感がある2015年02月14日

『はじめて読む人のローマ史1200年』(本村凌二/祥伝社新書)
 『ローマ帝国衰亡史』を読み終えたら読もうと思い、昨年購入したまま積んであった次の新書を読んだ。

 『はじめて読む人のローマ史1200年』(本村凌二/祥伝社新書)

 『ローマ帝国衰亡史』(文庫本10巻)の読了には1年かかったが、この新書本は1日で読めた。期待以上に面白かった。著者は団塊世代(私と同じだ)の歴史学者である。『はじめて読む人の・・・』というタイトルを見ると初学者向けの入門書のようで、そのつもりで書かれたのかもしれないが、内容はかなり深い。もっといいタイトルがなかったのかとも思われる。

 私はギボンの『ローマ帝国衰亡史』を読了したばかりだし、4年前には塩野七生の『ローマ人の物語』(薄い文庫本で43冊!)を読了している。また、本書の著者の『地中海世界とローマ帝国』も7年前に読んでいる。だから、ローマ史に関して「はじめて読む人」とは言い難い。しかし、本書を興味深く読み進めながら、私に丁度いい本だと思った。昔読んだ本の内容は頭の中からほとんど消えているので、実態は初学者と変わらないということもあるが、本書には現在の歴史学の現場レポート的な面白さもあり、とても勉強になった。

 『はじめて読む人のローマ史1200年』は、歴史上の出来事を羅列・解説した「早わかり」的な本ではない。著者は「はじめに」で次のように述べている。

 「ローマの歴史は1200年にも及び、その全貌を新書一冊で語ろうとすることは無謀な試みかもしれません。そこで、本書ではローマ史の起承転結に即してテーマを絞り、七つの「なぜ」に答える形で、膨大な歴史をひとつの大きな流れとして見ていきます。」

 この七つの「なぜ」は以下通りだ。

 起(建国から、カルタゴの滅亡まで 紀元前753~紀元前146年)
  (1) なぜ、ローマ人は共和政を選んだか?
  (2) なぜ、ローマ軍は強かったか?
 承(内乱の1世紀から、ネロ帝殺害まで 紀元前146~68年)
  (3) なぜ、ローマは大帝国になったのか?
  (4) なぜ、ローマ人以外に市民権を与えたのか?
 転(五賢帝から、セウェレス朝の終焉まで 168~235年)
  (5) なぜ、皇帝はパンとサーカスを与えたのか?
  (6) なぜ、キリスト教は弾圧されたのか?
 結(軍人皇帝から、西ローマ帝国の滅亡まで 235~476年)
  (7) なぜ、ローマは滅亡したのか?

 これらの「なぜ」について、歴史上の事柄をふまえ、小ネタや著者独自の見解などを織り込みながら、わかりやすく解説している。読んでいると、雑談混じりの楽しい講義を聞いている気分になってくる。

 歴史学者にとっては、塩野七生の『ローマ人の物語』やヤマザキ・マリの『テルマエ・ロマエ』などは無視の対象かと勝手に想像していたが、本書はこの二つも好意的に取りあげている。

 ローマの最盛期には多くの人々が楽しんでいたテルマエ(公衆浴場)が、その後なぜ廃れたかの説明もあり、なるほどそうだったのかと納得できた。

 本書には著者の博士論文のテーマの紹介もある。ローマの奴隷の供給源に関する研究で、これも興味深い話だった。

 著者独自の見解の中で私が最も驚いたのは、ローマが「帝国」になったのは紀元前146年(カルタゴ殲滅の年)とする見解だ。ローマが共和政から帝政になったのは、カエサル(紀元前44年暗殺)、アウグストゥス(紀元前27年に初代皇帝)の時代で、その頃に「帝国」になったと思っていたが、それより1世紀以前から「帝国」だったというのだ。考えてみれば、「ローマ帝国」という呼び名は後世につけられたもので、当時の人が自称してわけではなさそうだ。先入観にとらわれない見方の勉強になった。

 本書は「なぜ」というテーマを設定し、それに答えていく形になっている。しかし、当然のことながら、歴史上の「なぜ」のすべてが解明されているわけではない。著者は歴史学者として、そこらへんの事情も述べている。「なぜだかわからない」「決着がついていない」とされている事項も紹介しているのが本書の魅力のひとつだ。

 本書を読むと、歴史研究へのワクワク感がわいてくる。初学者向けの良質なガイドブックなのは確かだ。その意味で『はじめて読む人の・・・』というタイトルは、やはり適切なのかもしれない。

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