突然、世界文学全集の『レベッカ』を読んだ2023年06月03日

『レベッカ』(デュ・モーリア/大久保康雄訳/河出書房新社/1960.7)
 いずれ読みたい世界文学や、いつの日かの再読を楽しみにしている小説は少なくない。それらをさしおいて突然、古い世界文学全集所収の『レベッカ』を読んた。

 『レベッカ』(デュ・モーリア/大久保康雄訳/河出書房新社/1960.7)

 河出書房の「世界文学全集 グリーン版」は私が子供の頃から家にあった。実家を処分するときに引き取ったので、わが書架の奥に眠っている。

 本書を読んだきっかけは、日経新聞夕刊(2023.5.24)に載った松浦寿輝氏のコラムである。「懐かしい本」と題して、中学2年のときに読んだ『レベッカ』を挙げている。「上下段にびっしり活字が組まれた」全集本は、「大人の小説」初体験だったそうだ。松浦氏は「幸福な出会いではあった。そのとき教えてもらった小説の物語というものの悦楽が、以後のわたしの人生を決定することになったからである」と語っている。

 私は中学生のとき、世界文学全集の『大地(上)(下)』(パール・バック)で、松浦氏に似た「大人の小説」初体験をした。だが『レベッカ』は関心外で、これまで読もうと思ったことがなかった。

 松浦氏のコラムを読んで、中学生の頃から背表紙だけは眺めていた『レベッカ』が急に気がかりになった。74歳の高齢者が中学生のような読書体験をできるとは思わないが、この小説を読みたくなった。

 私の事前のイメージは、女性作家によるゴシック・ロマンらしい、ヒチコックが映画化したのだから面白そうだ、という程度だった。それ以上の予備知識はなっかた。

 2段組470ページをほぼ一日で一気に読んだ。ホラー、ミステリー、ラブロマンスの要素がまざった面白い小説である。若い女性の一人称叙述は事実と想像と妄想が混在していて少々不気味でもある。中学生のときに読めば、より大きな感慨を抱いたと思う。

 よくできた物語だが、レベッカ(小説上では故人)をはじめ登場人物たちの造形がいまひとつピンと来ない。人物像の陰影をもっと魅力的に表現できないかと思った。

 この小説の最大の魅力はマンダレイという舞台設定である。海に面した森の中の城のような大邸宅は大時代的だ。多くの使用人を抱える領主の後妻になった若い娘というお伽噺のような状況を、20世紀の物語として面白く書き込んでいる。

 作者は1907年生まれ、私から見れば祖母の世代で、ギリギリ同時代作家に近い。だが、19世紀の文学を読んでいる気分になる。世界文学全集に収録されていることと相まって古風な魅力を湛えた小説だと感じた。

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