『北条氏の時代』(本郷和人)で鎌倉時代の面白さを知った2022年09月23日

『北条氏の時代』(本郷和人/文春新書)
 先日、本郷和人氏の『歴史学者という病』を面白く読み、この著者の他の本にも興味がわき、次の新書を読んだ。

 『北条氏の時代』(本郷和人/文春新書)

 期待にたがわぬ面白い本である。大河ドラマ『鎌倉殿の十三人』に当て込んだ新書だろうが、日本の中世史に不案内は私には大いに勉強になった。著者は「あとがき」で次のように述懐してる。

 「長年の研究生成果を詰め込んで。独自のものをまとめることができたと自負しています(自惚れが過ぎるかな)。」

 北条氏を中心にした鎌倉時代150年を概説し、随所に著者の見解表明がある。単なる出来事の羅列ではなく、時代の趨勢のなかでの出来事の位置づけを的確に解説している。北条氏の興亡に歴史の面白さと教訓を感じた。どの地域のどんな時代でも、その歴史を深く探究すれば独自の面白さを発見できるのだとは思うが、本書によって鎌倉時代が興味深い時代だと認識した。

 本書はタイトル通り、北条氏の歴史を描いている。全6章のタイトルは以下の通りだ。この章題が150年の歴史のあらましを語っている。

 第1章 北条時政――敵をつくらない陰謀家
 第2章 北条義時――「世論」を味方に朝廷を破る
 第3章 北条泰時――「先進」京都に学んだ式目制定
 第4章 北条時頼――民を視野に入れた統治力
 第5章 北条時宗、北条貞時――強すぎた世襲権力の弊害
 第6章 北条高時――得宗一人勝ち体制が滅びた理由

 上記7人の「時〇」「〇時」たちは執権であり得宗(北条本家の当主)でもある。第2章まで、つまり義時までの50年弱で本書の約半分である。

 本書前半は今回の大河ドラマに重なる時代になり、読み進めながら、あの大河ドラマが思った以上に史実をふまえていると知った。ドラマでは人物像を美化・戯画化しているが、三浦義村は本書とドラマのイメージが重なる。多くの重要事件や陰謀にかかわったキーパーソンであり、いわば曲者である。

 本書で意外に感じたのは実朝像である。実朝といえば太宰治の『右大臣実朝』や吉本隆明の『源実朝』の印象が強く、政治から距離を置いた歌人のイメージがある。しかし、著者は実朝を「自ら多くの政治的決断を行った」とし、和歌作りも政治的行動の一環と見なしている。そして、実朝暗殺に関して次のように述べている。

 「私は、この事件は御家人たちの総意であり、それをくみ取った義時によって起こされたと考えています。理由は再三述べてきた通り、実朝が将軍の存在意義を忘れてしまい、御家人の利益代表でなくなったことに尽きます。」

 本書後半の約100年は、私にとってはほとんど未知の時代で、著者の慧眼に蒙を啓かれた。貨幣経済の発展にともない、鎌倉幕府内に「御家人ファースト派」対「統治派」のオセロゲームのようなせめぎ合いがあったという指摘が興味深い。

 鎌倉時代とは、地方の無名の一族に過ぎなかった北条氏が勢力を拡大し、将軍や天皇を決める力をもつ実質的な「日本国王」にまで登りつめて行く歴史である。そして、その勢力の拡大こそが滅亡の要因になったという顛末も面白い。北条氏150年の興亡史に歴史のダイナミズムを感じる。同時に、いつの時代でも人間の集団の扱いはやっかいで難しいと思うしかない。

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