「ネスリウス派の今」にびっくりしたが…2021年12月11日

『大モンゴル2:幻の王プレスタージョン/世界征服への道』(NHK取材班編/角川書店)
 1992年放映のNHKスペシャル『大モンゴル』書籍版の第2巻である。

 『大モンゴル2:幻の王プレスタージョン/世界征服への道』(NHK取材班編/角川書店)

 この巻は次の2回分の番組内容を収録している。

 第1集『幻の王プレスター・ジョン』
 第3集『世界征服への道』

 書籍はチンギス・ハーンに始まる時系列構成だが、テレビ番組の第1回は『幻の王プレスター・ジョン』である。シリーズ冒頭に衝撃的なツカミとしてプレスター・ジョンをもってきた番組制作者の意図は、いまも視聴できる 第1集の冒頭部分を見れば理解できる。

 はるか東方にキリスト教を信じるプレスター・ジョンという王がいて、イスラム教徒を駆逐している。そんな伝説が十字軍時代のヨーロッパにあり、東方の王の来援を期待していた。しかし、東方から現れたのはモンゴル軍だった――思わず引き込まれる話である。

 キリスト教の東方へ伝播を追った第1集ではネストリウス派を取り上げている。そこで、私には非常に興味深い記述に出会った。

 シルクロードで唐にまで伝わったキリスト教はネストリウス派で、唐では景教と呼ばれた。大昔に消えた宗派だと私は思っていたが、最近、そのネストリウス派が現代まで続いていると知って驚いた。アッシリア東方教会というのが現代のネストリウス派で、この教会はネストリウス派を蔑称と感じているので、いまはネストリウス派という名称を使わないようにしようという流れがあるそうだ。

 そんな話を聞いた直後に、30年前の本書で「ネストリウス派の今」に関する記述に接した。驚いたことに、アッシリア東方教会の総本山はアメリカのイリノイ州にあるそうだ。取材班は総本山に連絡をとり「私たちの本部は、中世以来長い間バグダードにありましたが、今世紀(20世紀)に入って総司教がアメリカに移住し、本部も移したのです」との情報を得ている。

 ヘェーと思いながらウィキペディアで 「アッシリア東方教会」 を検索すると、確かに「総主教庁はアメリア・イリノイ州にある」と記述している。念のためにウィキペディア英語版で "Assyrian Church of the East" を検索すると、日本語版の数倍の情報量だった。ザーッと眺めたところ、この英文ページには、信者は米国に多くいてイリノイ州やカリフォルニア州に教区があるとは書いているが「総主教庁はイリノイ州」の記述はない。Headquarters の欄は "Ankawa, Erbil, Iraq"となっている。ウィキペディアの信憑性は自分で判断するしかない。

 私が推測するに、30年前にNHKが報じた「総本山はイリノイ州」は、当時そう自称する団体があったというだけの話で、誤報ではなかろうか。日本語のウィキペディアに「総主教庁はイリノイ州」とあるのは、この番組が何らかの影響を及ぼしているのかもしれない。

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