福岡伸一『生命海流』でわが懐かしのガラパゴスを追体験2021年07月04日

『生命海流:GALAPAGOS』(福岡伸一/朝日出版社)
  『生物と無生物のあいだ』 『動的平衡』で知られる生物学者・福岡伸一氏がガラパゴス諸島に行き、その記録を本にした。

 『生命海流:GALAPAGOS』(福岡伸一/朝日出版社)

 ガラパゴスは私にとって懐かしい場所だ。ピースボートの世界一周で ガラパゴスを訪れた のは13年前の2008年11月で、私は彼の地で還暦をむかえた。これまで、そこそこの数の世界各地の観光地に行ったが、再訪したいと思った場所の筆頭はガラパゴスだった。

 もはや私がガラパゴスを再訪する機会はないだろうと思いつつ本書を手にした。美しいカラー写真がたくさん載っている読みやすい本である。

 福岡伸一氏にとってガラパゴス訪問は長年の夢で、昨年(2020年)3月、コロナ蔓延直前に念願を果たしたそうだ。その訪問は、私のような規定の観光コースではなく、1835年にダーウィンがビーグル号で巡ったコースを小型のチャーター船でたどるという贅沢な旅である。

 ガラパゴスとは関東地方くらいの範囲に大小123島が散在する群島で、13年前の私は4泊の4島巡りだった(当初は6島予定だったが諸般の事情で変更)。ビーグル号は1ヵ月あまりかけて主要な島を調査・測量している。福岡氏はそのコースを1週間で巡ったそうだ。

 本書はガラパゴス紹介の本だが、半分ばかりは福岡氏の自分語りの書でもある。ガラパゴスに到着するまでのアレコレが脱線気味に長い。朝日出版社のレクチュア・ブックスに関する記述など、私には懐かしくて興味深かったが、うんざりする読者がいるかもしれない。

 旅日記はガラパゴスの自然誌紹介であると同時に福岡氏の自然観の開陳である。小型船のメンバー紹介、トイレ紹介、料理紹介などからは福岡氏の高揚感が伝わってきて、自分も同乗している気分にさせられる。私には13年前の追体験のようでもあり、懐かしさに浸った。

 私が本書で最も面白いと思ったのは「ダーウィンのふるさととされるガラパゴスは、実は、もっともダーウィン的ではなかったのだ」という指摘である。

 それは、ガラパゴスの生物は生存の自由度と余裕を享受しているという見方である。ダーウィンに異議を唱えた今西錦司の「棲み分け」につながるように思える。福岡氏は今西進化論について「夢中になって読んだものの、話法が独特すぎてほとんどきちんと理解できなかった」と述懐している。同感である。上記の「ダーウィン的ではなかった」については「別の機会に考察を進めてみたい」としている。期待したい。

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