冒険小説『北京の星』を読み、1971-72年を回顧2021年05月13日

『北京の星』(伴野朗/光文社文庫)
 私より一世代若い知人と中国に関する雑談をしていて周恩来が話題になり、伴野朗の『北京の星』という小説が面白いと教えらえた。さっそく、古書で入手して読んだ。

 『北京の星』(伴野朗/光文社文庫)

 半世紀前の衝撃的な米中接近時代の政治・外交を題材にしたエンタメ冒険小説で、当時の世の中の雰囲気を懐かしく思い出した。

 作家・伴野朗は中国語に通じた元新聞記者でサイゴン支局長や上海支局長などを経験している。この小説の主人公は香港支局長の新聞記者で、時代は1971年。キッシンジャーが隠密訪中で周恩来と会談し、ニクソン大統領の訪中計画を発表して世界を驚かせた年である。

 キッシンジャーの隠密訪中を巡る台湾や中国国内の諸勢力の暗躍を描いていた小説である。殺人事件や派手な活劇を盛り込んだフィクションではあるが、周恩来、林彪、王洪文、キッシンジャー、ニクソンなど実在の人物が登場し、彼らの動向はおおむね史実をベースにしていると思われる。タイトルの「北京の星」は周恩来を指す。

 小説を読みながら1971年という時代を確認したくなり、『朝日新聞に見る日本のあゆみ(昭和46年-47年)』や歴史年表をめくった。

 当時、私は大学生だった。あの頃、中国は門戸の狭い謎の国で、文革はまだ終わってなく、ベトナム戦争も続いていた。突然の米中接近には私も驚いた。キッシンジャーの隠密訪中が1971年7月で、当時の朝日新聞の見出しには「日本政府を頭越し 困惑深刻、自身失う」とある。3カ月後の1971年10月、国連でアルバニア案が可決され中国の国連参加が決まり、台湾は国連脱退を表明する。ニクソン訪中は翌1972年2月で、そのとき日本は、あさま山荘事件の真っ最中だった。テルアビブ空港乱射事件はその3カ月後である。1960年代末の騒乱の残り火で、時代はまだ騒然としていた。

 あれから半世紀、中国、香港、台湾をめぐる状況は大きく変わった。あの頃、こんな未来になるとは思いも及ばなかった。

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