『騙し絵の牙』が想定通り大泉洋主演で映画化2021年04月05日

 先週から公開中の映画『騙し絵の牙』を観た。 原作の小説 を読んだのは3年以上前で、構造不況の出版業界を描いた面白い話だと思った。この小説で驚いたのは、主人公を俳優・大泉洋にアテガキしていることだった。表紙には大泉洋が主人公に扮した写真が載っていた。役者をアテガキする戯曲はあるが小説は珍しい。

 この小説が刊行された頃、大泉洋がどこかで「この小説が映画化されるとき、ぼくが主人公じゃなかったら騙しですよね」と語っていた。小説が売れないことをネタにしたこの小説がどれほど売れたかは知らないが、無事、大泉洋主演で映画化されたのはご同慶の至りである。

 映画の展開は小説とは少し異なっている。大手文芸出版社という舞台設定は同じだ。雑誌、特に文芸雑誌が売れなくなってきた時代への対応を迫られている出版社の話は興味深い。小説で描かれていたパチンコ業界やゲーム業界との絡みは映画では省かれている。そのかわり、というのも変だが、町の本屋の苦境が取り上げられている。

 映画は小説以上に「騙し合い」をメインにしたエンタメになっていて、それなりに楽しめた。出版不況への対応策を提示しているわけではないが、現代の問題を提示しているのは確かだ。

 どうせなら「小説の映画化」というプロジェクトそのものを映画化して、メタフィクション風に映画業界を相対化して観せる映画にしても面白かったのではと思った。