60年前の小説『宴のあと』は面白かった2020年12月24日

『宴のあと』(三島由紀夫/新潮文庫)
 『禁色』に続いて、本棚に眠っていた三島由紀夫の次の未読作品を読んだ。

 『宴のあと』(三島由紀夫/新潮文庫)

 この作品名は中学生の頃からよく耳にしていた。プライバシー裁判で有名な小説だったのだ。私は岡山の片田舎の中学生だったが、東京都知事選が「アズマvsアリタ」で争われたのは、似た名前同士だったので記憶に残っている。その都知事選で敗れた方をモデルにした小説が『宴のあと』である。

 この文庫本を購入したのは大学生の頃で、それから半世紀以上経って、黄ばんできた本書をやっと読了した。

 読み始めると引きこまれ、短時間で読了した。三島由紀夫35歳の1960年に刊行された小説で、プライバシー訴訟で販売が差し止められるも、その後の和解によって原文のまま刊行されている。

 『宴のあと』は、辛苦のうえに料亭の女将になった女傑・福沢かずが、元・外交官で外務大臣も務めたインテリ老人・野口雄賢と再婚し、都知事選を戦う話である。野口雄賢のモデルは、戦前に外務大臣を歴任し、戦後は革新統一候補として都知事選出馬して落選した有田八郎である。

 この小説には精神や肉体を巡る観念的記述はなく、描写は即物的、人物は典型的でわかりやすい。物語の構成は明解で展開もよどみない。エンタメと言えなくもない読みやすい小説である。面白い。

 この小説の魅力は、女主人公・福沢かずの迫力にある。読みようにによっては、三島由紀夫が意図せずに表出したフェミニズム小説と言えるかもしれない。だが、肉体による精神批判とも読めるので、反フェミニズムと見なされるかもしれない。

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