映画『ゲンセンカン主人』の奇妙な味2020年09月01日

『つげ義春ワールド ゲンセンカン主人』(ワイズ出版 )、DVD『つげ義春ワールド ゲンセンカン主人』
 つげ義春のマンガを再読していて、映画『ゲンセンカン主人』をまだ観ていないことを思い出し、無性に観たくなった。

 つげ義春のマンガを石井輝男監督が映画化した『ゲンセンカン主人』が公開されたのは1993年、27年も前である。公開時に映画のメイキングブックが出版された。書店の店頭でそれを見つけた私はすぐに購入した。

 『つげ義春ワールド ゲンセンカン主人』(つげ義春・石井輝男/ワイズ出版/1993.7 )

 私は本書によって映画化を知ったが、映画は観ていない。27年前のことなので記憶が定かではないが、この本を読むだけで映画を観た気になり、それで満足したようにも思える。

 ハードカバーで289ページの本書はよくできたメイキングブックである。原作の4編のマンガ(『李さん一家』『紅い花』『ゲンセンカン主人』『池袋百点会』)と映画のシナリオが収録されているだけでなく、スチール写真や撮影風景の写真が多数掲載されている。スタッフや俳優の談話やインタビューに加えて、つげ義春の「ロケ見物日記」も載っている。同じシーンのマンガのコマと映画のカットを並べているページもある。

 このメーキングブックで、マンガのシーンがそのまま実写になっているのに目を見張った記憶がある。27年ぶりに本書をパラパラとめくり、映画を観たくなったが、アマゾンの Prime Video にはない。仕方なく、DVDを購入してしまった。

 原作マンガもシナリオも読んだうえで映画を観て、不思議な気分になった。マンガのコマにそっくりのシーンが、マンガの人物に酷似した役者によって「動く絵」になっている。二次元の世界が三次元の世界に投影されていることに感嘆すると同時に、マンガを読むという体験とは別種の異世界に入り込んだ気分になる。醒めたまま夢を観ているような奇妙な感覚にとらわれた。

 それにしても、映画のタイトルにもなった『ゲンセンカン主人』は奇怪で、印象の強烈な作品である。人が分身の集合であることの怖さ――私は、そう感じた。

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