ソグド人に関する研究者たちのレポート集を読了2020年07月11日

 『ソグド人と東ユーラシアの文化交渉』(森部豊:編/勉誠出版/2014.8)
 松本清張の『眩人』を読んだのを機に、読みかけだった次の本を読了した。

 『ソグド人と東ユーラシアの文化交渉』(森部豊:編/勉誠出版/2014.8)

 本書は一般向け概説書ではなく論文集に近い。冒頭の総論で編者は次のように述べている。

 「本書のねらいは、このように二十世紀後半から二十一世紀はじめにかけて、急速に進展したソグド研究の最新情報を、その第一戦で活躍する研究者によって伝えてもらおうとするものである。(…)十四名の研究者により、空間的にはソグディアナから中国東端の華北まで、時期的にはおよそ四世紀から十一世紀ころまでのソグド人の諸相が描かれることになる。」

 14編それぞれを興味深く読んだ。門外漢にとってはトリビアルに感じられる議論や考察もあるが、研究者の問題意識のありようがわかり、それなりに面白かった。本書の内容を十分に咀嚼できたわけではないが、ソグド研究の現状を垣間見ることができ、ぼんやりとではあるがソグド人の多様なイメージをつかむことができた。

 研究者たちのレポートだから、当然ながら史料の紹介・検討が中心である。文書史料や絵画史料もあるが、史料の多くは石碑や墓誌である。20世紀末になってソグド人墓誌の発見が相次いだのは、中国で開発工事が進展したという事情もあるようだ。また、ソ連崩壊によってソ連内に保管されていた中央アジアの史料へのアクセスが容易になったということもあるらしい。

 14編の論文の中には、松本清張が『眩人』で提示した「平城京にやって来たソグド人」を考察したものはない。正倉院にソグド人関連と見られる物があるのは知られているが、日本でソグド人の墓誌が発見されたという話は聞かないので、それは仕方ないことだろう。