野尻抱介の『太陽の簒奪者』はリケジョ活躍のハードSF2020年06月28日

『太陽の簒奪者』(野尻抱介/ハヤカワ文庫)
 先月、野尻抱介氏のSF短編集『沈黙のフライバイ』を読み、そのハードSF世界の面白さに感心したので、この作家の代表作であるらしい次の長編も読んだ。

 『太陽の簒奪者』(野尻抱介/ハヤカワ文庫)

 単行本の刊行は2002年、12年前の長編だが、昔のSF(1980年代頃まで)しか知らない私には新鮮な印象のSFだった。

 主人公は冒頭に登場するときは高校の天文部部長の女子高校生で、学園小説を思わせるような軽やかな雰囲気で物語が始まる。文章も展開も軽やかだが、そこで語られる内容はまさにハードSFである。

 テーマはずばり異星人とのファースト・コンタクトで、それをリアルに描いている。2006年の兆候から2041年の実際の遭遇までを描いた未来(発表当時の)物語で、女子高校生だった主人公は当然ながら齢を重ね、重要な役割を担う人物になっていく。とは言っても、第一印象のせいもあり、リケジョが活躍する青春小説の雰囲気が持続する。にもかかわらず内容は科学技術の現状と未来を反映したSFになっている。

 この小説では「意識」への考察があり、昨年読んだ『脳の意識 機械の意識』(渡辺正峰/中公新書)を連想し、作者の先見性に感心した。私の知識が乏しいせいでもあるが、そんなところに本書の現代性を感じた。