30年以上前の新書『ペスト大流行』で14世紀のイメージを把む2020年05月31日

『ペスト大流行:ヨーロッパ中世の崩壊』(村上陽一郎/岩波新書)
 『ペスト大流行:ヨーロッパ中世の崩壊』(村上陽一郎/岩波新書)

 1983年刊行の本で、私が読んだのは2020年4月24日発行の20刷――コロナ禍での増刷本である。14世紀にヨーロッパを席巻した「黒死病」に関する本だが、その他の時期の流行(6世紀、17世紀、19世紀末など)にも言及している。

 サブタイトル「ヨーロッパ中世の崩壊」が示しているように、ペスト大流行の様相を記述すると同時に、それが社会や人心にもたらした影響も考察している。歴史変動の一例を描いた世界史教科書の副読本の趣きもあり、興味深く読了した。

 ペストは世界各地の色々な時代に発生しているが、本書で取り上げた14世紀のヨーロッパでの大流行が横綱級のようだ。世界史関連の本は、読んでもすぐに頭の中で霞んでしまうが、本書によって「14世紀」のイメージをザックリと把めた気がする。

 14世紀――それはタイヘンな時代である。寒冷化、サバクトビバッタ、エトナ山の大噴火などによる飢饉の世紀であり、ペスト大流行の世紀である。中世末期を迎えていたヨーロッパ社会は「中世の崩壊」という形の転換期に入る。「教皇のバビロン捕囚(アヴィニョン)」で教皇権は衰退し、英仏の百年戦争が始まる。東アジアでは、あの「世界帝国」を作った元が衰退期に入る。

 そんなイメージを抱くことができたのが本書の収穫である。

 ラテン語の「メメント・モリ(死を忘れるな)」が伝誦され始めたのは遅くとも13世紀だそうだが、この教訓がポピュラーになるのはペスト大流行を経験した14世紀である。この時期、ペスト大流行で各地のラテン語教師が死亡し、日常言語による表現が広まったそうだ。ラテン語教師の死によって「メメント・モリ」が残った――そういうことである。