『ちくま文学の森・おかしい話』は「変・滑稽・奇想」の傑作集2020年04月24日

『おかしい話』(ちくま文学の森5/筑摩書房)
 『ちくま文学の森7・恐ろしい話』に続いて次の第5巻を読んだ。

 『おかしい話』(ちくま文学の森5/筑摩書房)

 この叢書の特徴は各巻のユニークなタイトルにあり、「第1巻 美しい恋の物語」「第2巻 心洗われる話」「第3巻 幼かりし日々」……と続くのだが、第1巻からの順番ではなく自分が惹かれるタイトルの巻を読みたくなるのは当然で、『恐ろしい話』の次に『おかしい話』に手が伸びた。

 『おかしい話』は巻頭が長谷川四郎の「おかしい男の歌」という詩で、それに続いて18編の短篇(内11編が翻訳)が収録されている。巻末の井上ひさしの解説も一つのおかしい短篇小説と言える。

 このアンソロジーは『恐ろしい話』より面白かった。私が面白いと思ったのは「死んでいる時間(ボンテンぺㇽリ)」「結婚申込み(チェーオフ)」「勉強記(坂口安吾)」「あたま山(八代目林家正蔵演)」「運命(ヘルタイ)」「海草と郭公時計(T.F.ポイス)」「美食倶楽部(谷崎潤一郎)」「本当の話 抄(ルキアノス)」などである。

 おかしい話とは「変な話、滑稽な話、奇想の話」であり、「恐ろしい話」より幅が広くなり、その面白さは「恐ろしい話」より風雪に耐えて普遍的になりやすいと思える。

 本書収録の「幸福の塩化物」(ピチグリッチ)という翻訳小説は戦前の訳文で、当時の検閲による「伏字」はそのままである。エロチックな場面で「三十五字伏字」「四行伏字」などの表記になっている。新たな訳文がないという事情もあるかもしれないが、伏字がもたらす効果を狙っているように思える。確かにその効果はある。

 このアンソロジーは19世紀から20世紀前半の短篇がメインである。だが、本書には2世紀のルキアノスの作品「本当の話 抄」が収録されている。ルキアノスは『自省録』で有名な最後の「五賢帝」マルクス・アウレリウスと同時代のギリシア人である。この「本当の話 抄」の奔放な内容には驚いた。ほら男爵の冒険の古代版に近いが、ジブラルタル海峡を越えて大西洋に出た船は宇宙にまで飛び出し月世界と太陽世界の戦争に巻き込まれ、さらには不可思議な国を巡って行く。その奇想はガリバー旅行記を超えている。この作品は「史上最古のSF」と見なされているそうだ。首肯できる。

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