「西武門哀歌」の謎 --- 「ジン」とは何か?2019年11月15日

加藤登紀子『日本哀歌集/知床旅情』のLPとCD
◎「西武門」は何と読むか

 年に数回沖縄に行くようになって、那覇市の「西武門」という地名が心に残った。初詣で賑わう波上宮近くの交差点やバス停にこの表記があり、何と読むのか気になりつつ数年が経過し、最近になってネットで読み方を調べた。その結果、いろいろなことがわかり、新たな疑問もわいた。

 「西武門」は「にしんじょう」と読む。「西武門節」という古い沖縄民謡があるそうだ。辻遊郭の娼妓の情歌である。波上宮近くの辻という地域は今も風俗店が多い。

◎「西武門節」と「西武門哀歌」

 「西武門節」を元に川田松夫(沖縄県職員)が作詞・作曲した「西武門哀歌」があり、加藤登紀子が歌ったそうだ。それをネットで聞くことができた。

 「西武門哀歌」は私には聞きなれた曲だった。大学時代(約半世紀前)に購入し何度も繰り返し聞いてきた加藤登紀子のLPアルバム『日本哀歌集/知床旅情』に収録されている曲である。後年このLPのCD版も購入し、今は私のipodにも入っている。

 若い頃に「西武門哀歌」という曲名を目にした記憶もかすかによみがえってきた。そのときは「せいぶもん」ってどこにある門だろうとチラッと考えただけで、そのまま忘れていた。

 この曲をあらためて聞いて、この曲の歌詞に意味不明の箇所があり、それを半世紀も聞き流してきたことに思い当たった。

◎「ジン」とは何か?

 「西武門哀歌」には「ジン」という印象的な言葉が出てくるが、その意味がわからないのである。この言葉は次の三カ所に出てくる。

 (1)夢を見たよ夢を/ジンと夢にようて
 (2)ジャミも濡れたようて/ジンとジャミも濡れた
 (3)思いばかりようて/ジンと思いばかり

 「にしんじょう」という読み方を知ったのを機に「ジン」が何かを解明しようと調べてみた。しかしわからない。

 酒の「ジン」なら(2)がおかしい(「ジャミ」は三線だろう)。沖縄方言で「お金」を「ジン」と呼ぶらしいが、それでは意味が通らない。人名でもなさそうだ。

 ふと思い浮かんだのが琉球歌の「娘ジントーヨー」である。調べてみると「ジントーヨー」は「本当だよ」という意味である。「ジントー」は「本当」という意味だそうだ。

 ここからは私の推測である。LPやCDに添付の歌詞には「ジンと」とあるが、これは「ジントー」の誤記で「本当に」という意味ではなかろうか。それだと何とか意味が通る。

 「ジン」の意味を知っている方の教えを請いたい。

◎LPとCDの違い

 『日本哀歌集/知床旅情』のLPとCDを並べて眺めていて、LPの「西武門哀歌」がCDでは「西武門節」になっているのに気づいた。曲は同じでタイトルが変更されている。「西武門節」は「西武門哀歌」の元歌である。ネットで「西武門節」を聞くことができるが、それは「西武門哀歌」とは別物である。CD化に際してなぜ「西武門節」に変更したのか、謎である。

 他にもLPとCDに違いがある。LPにあった「竹田の子守唄」がCDには収録されていない。「竹田の子守唄」をネット検索して、この唄には部落問題絡みのいろいろな経緯があることを知った。CDに収録されなかったのには何か事情があるのだろう。それが何かはわからない。