『ローマ人の物語』第2巻の『ハンニバル戦記』を再読2019年11月10日

『ハンニバル戦記(上)(中)(下) ローマ人の物語3,4,5』(塩野七生/新潮文庫)
 今月下旬に予定しているチュニジア旅行にそなえてカルタゴ関連の本をいくつか読み、その仕上げ気分で15年前に読んだ次の本を再読した。

 『ハンニバル戦記(上)(中)(下) ローマ人の物語3,4,5』(塩野七生/新潮文庫)

 文庫本で3冊、元の単行本では『ローマ人の物語』全15巻の第2巻が本書『ハンニバル戦記』である。『ローマ人の物語』全15巻は最初の5巻が興隆期、次の5巻が繁栄期、終りの5巻が衰退期になっている。第2巻『ハンニバル戦記』は興隆期の始まりであり、この時期のローマには初々しさを感じる。

 本書は第1次ポエニ戦争から第3次ポエニ戦争までの130年を叙述しているが、メインはハンニバル戦争と呼ばれる第2次ポエニ戦争であり、それに三分の二を費やしている。主人公はハンニバル、副主人公は「晴朗」な大スキピオであり、敵対したこの二人への著者の好感が伝わってくる。

 ハンニバルが主人公ではあるが、目線はカルタゴではなくローマにあり、第1次ポエニ戦争後にカルタゴで勃発した傭兵戦争(リビア戦争)の記述は簡略で、フローベルの『サランボオ』への言及もない。

 と言っても、当然ながら著者がローマを贔屓してカルタゴを疎んじているわけではない。第3次ポエニ戦争に関してはローマのカトーには批判的で、滅んでいくカルタゴを哀惜している。森本哲郎は第2次ポエニ戦争後のカルタゴを第2次世界大戦後の日本になぞらえ「通商国家カルタゴ」の繁栄がローマの逆鱗にふれたと述べていたが、塩野七生氏は第2次ポエニ戦争後のカルタゴの「通商」はさほどではなく農業で繁栄したと見ている。

 塩野七生氏の関心は世界を動かす男たちにある。本書を再読して印象に残ったのは次の一節である。

 「私には、アレクサンダー大王の最も優秀な弟子がハンニバルであるとすれば、そのハンニバルの最も優れた弟子は、このスキピオではないかと思われる。そして、アレクサンダーは弟子の才能を試験する機会をもたずに世を去ったが、それが彼の幸運でもあったのだが、ハンニバルの場合は、そうはならなかったのであった。」