『カルタゴの運命』読了日に眉村卓氏逝去のニュース2019年11月03日

『燃える傾斜』(眉村卓F/東都書房)、『カルタゴの運命』(眉村卓/新人物往来社)
 本日(2019年11月3日)、午後7時のNHKニュースで眉村卓氏逝去のニュースが流れ、非常に驚いた。私はオールドSFファンなので眉村卓氏の小説にはデビュー当時から接している。親近感のある作家ではあるが、この十数年はその作品を読んでなかった。

 そんな私が久々に眉村卓氏の長編SFを入手し、数日前に読み始めて本日の昼前に読了した。その読後感をブログに書こうと考えていたときに作家逝去の報に接したのである。驚かざるを得ない。

 本日読了したのは次の歴史SFである。

 『カルタゴの運命』(眉村卓/新人物往来社)

 実は今月下旬にチュニジア旅行を予定しており、その準備にカルタゴ関連の本をいくつか読んでいて、ネット検索で本書の存在を初めて知った。ジュブナイルの文庫本と思い込んでネット古書店に注文すると、届いたのは分厚いハードカバーだった。

 この歴史SFは1990年から1998年まで歴史雑誌に連載され、1998年11月に刊行されている。800頁超える大作である。現代のフリーターの若者が怪しげな求人広告に応募して、謎の人々によって紀元前の世界に送り込まれ、ローマとカルタゴが戦ったポエニ戦争に介入するという物語である。

 800頁を超える長編であっても、眉村卓氏の律義で坦々とした語り口に乗せられると長さを感じない。タイムパラドックスを超克するSF仕立ての部分には苦闘の跡を感じる。百数十年にわたる三度のポエニ戦争の過程をかなり詳細に記述しているので、カルタゴに関心をもつ読者には恰好の歴史小説である。私にとっては歴史書の復習になると同時にこの時代への感情移入の助けになった。

 本書を読み終えて、眉村卓氏の処女長編『燃える傾斜』(東都書房/1963.5)を連想した。私が『燃える傾斜』を読んだのは半世紀以上昔の高校生の頃で、内容はほとんど失念しているが、大まかな印象は残っている。社会から落ちこぼれた主人公が、おのれの意思で謎の機関に関わることによって日常を超えた壮大な冒険(宇宙旅行、時間旅行)を体験して帰還する……その構造が『燃える傾斜』と『カルタゴの運命』に共通していると感じたのである。物語の普遍的な構造かもしれないが…。

 『カルタゴの運命』を読了し、作者の大昔の長編第一作を想起したとき、作者の訃報に接した。その暗合に慄然とする。『燃える傾斜』は眉村卓氏が20代で上梓した最初の著作である。当時、小松左京氏や筒井康隆氏の本はまだ刊行されていなかった。高校生の読者から見てもこの若書きの長編はやや稚拙な物語に見えた。でも印象には残った。

 いま『燃える傾斜』をめくって「あとがき」に目を通すと、小説執筆中の長女出生に言及している。本日のニュースによれば、その長女が眉村卓氏の喪主をつとめるらしい。

 眉村卓氏を追悼して『燃える傾斜』を五十数年ぶりに再読してみようと思った。

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