谷崎潤一郎や斎藤茂吉も登場する『ヒトラーの正体』2019年10月25日

『ヒトラーの正体』(舛添要一/小学館新書)
 舛添要一氏がヒトラーに関する新書を書いた。

 『ヒトラーの正体』(舛添要一/小学館新書)

 元都知事、その前は厚労大臣で参議院議員、それ以前は国際政治学者だったから現代史の本を著すことに不思議はない。とはいうものの、やや意外な感じがした。

 だが、考えてみれば「ヒトラー」は非常に多くの人々の関心を引きつける存在であり、私も中学生の頃からヒトラーに関する本をボチボチと読んできた。現代史の研究者がヒトラーを俎上に乗せるのは当然の必然である。

 本書はヒトラーに関する入門書である。著者はあとがきで「本書は、内外の専門家による膨大な研究に依拠しており、それらの優れた業績を私なりの考え方でまとめたにすぎません」と述べている。この言葉通りの内容で、ヒトラー評価(批判)なども常識的であり、元政治家としてのユニークな見解を開陳しているわけではない。

 でも、私には未知の知見も随所にあり面白かった。舛添氏は学究生活時代にミュンヘンに滞在したことがあるそうで、ミュンヘン絡みの話には現場の空気を感じることができた。ヒトラーのオーストリアやチェコへの侵入を国際社会が容認した背景に「民族自決」という考えがあったと指摘しているのは適格だと思った。そこを国際政治学者の視点でもっと掘り下げてほしかった。

 本書で面白いのは谷崎潤一郎の『細雪』や斎藤茂吉の短歌を援用してヒトラー台頭の時代の空気を描いている箇所である。私は高名な『細雪』を読んでいないが、そのうち読んでみようという気になった。