海老蔵のオディプス王はネクタイ背広姿だった2019年10月17日

 シアターコクーンで『オイディプス』(翻案・演出:マシュー・ダンスター)を観た。オイディプスは市川海老蔵、イオカステは黒木瞳、クレオンは高橋和也、コロスのリーダーが森山未來である。

 英国人の翻案・演出によるこの芝居、上演時間は休憩なしの1時間55分、さほど長くはない。テンポよく舞台が進行する。

 ソポクレスの原作にかなり忠実だがコロスの合唱部分は大幅に省略し、わかりやすい芝居になっている。登場人物の名や地名(テーバイ、コリントス)は原作と同じだが、衣装や装置は現代にも近未来にも見える設定である。

 疫病に苦しむテーバイは放射能汚染にさらされたシェルター都市の様相で、外部の様子をモニターで監視している。住人たちは外出時には防護服やガスマスク姿になる。オディプス王はネクタイにスーツ姿、クレオンは軍服姿、コリントスからの使者は軍用ヘリコプターで舞台の上方から軍服姿でやって来る。

 そんな設定で進行するギリシア悲劇だが、さほどに違和感はない。神話的物語の普遍性のせいか、むしろ親しみを感じてしまう。

 黒木瞳を舞台で観るのは初めてである。20年ぐらい昔の姿からあまり変わっていないのに少し驚いた。海老蔵の妻であり母でもあるという、違和感があってもおかしくない役にぴたりと収まっている。やや無理とも感じられる設定の物語が自然に見えてくる。

 この舞台を観て、ギリシア悲劇の舞台がエンタメになり得ると気づいた。歌舞伎にも通じる非日常的な娯楽性がある。多くの観客が求める物語の原初的なものがそこにあると思えた。