海賊行為の被害を描いた『ローマ亡き後の地中海世界』2019年10月11日

『ローマ亡き後の地中海世界:海賊、そして海軍(1)(2)(3)(4)』(塩野七生/新潮文庫)
 塩野七生氏の『ローマ亡き後の地中海世界』を読んだ。

 『ローマ亡き後の地中海世界:海賊、そして海軍(1)(2)(3)(4)』(塩野七生/新潮文庫)

 『ローマ人の物語』や『海の都の物語』を読んだ後、いずれ読まねばと思っていた作品である。久々の塩野ワールド体験だが、やはり塩野氏には読まされてしまう。雑用をこなしつつ文庫本4冊を1日1冊ペースで読んだ。面白かった。

 本書巻末には、著者が自身の関連既刊書と本書との関係を解説した「附録」があり、次のように述べている。

 「『海の都の物語』上下二巻/これはもう、『ローマ亡き後の地中海世界』と対を成す作品。舞台は地中海。時代も、古代ローマ滅亡後の一千年と同じ。/ちがうのは「海の都」はヴェネツィアに立って地中海を見ているのに対し、「亡きあとの地中海」のほうは、地中海の中央にいて東西南北に視線をめぐらせていることのみである。」

 この記述通りの内容で、主な舞台は南イタリア、南仏、シチリア、北アフリカ、ギリシア、小アジアとかなり広範囲である。特に地中海の真ん中に位置するシチリアの存在感が大きい。著者は「一言で言えば、「歴史が厚い」のがシチリアなのである。」と述べている。たまたま昨年、シチリア史の概説書を数冊読んでいたのでいい復習になった。

 本書は西ローマ帝国滅亡の5世紀から。海賊行為を禁止した19世紀のパリ宣言までの地中海世界を描いている。古代末期から中世、ルネサンスを経て近代に至る長い時間であり、この間にヨーロッパ世界を中心に展開される「世界史」は本書の遠景に霞んでいる。本書の背景の「世界史」をもう少し勉強せねばという気分になる。

 本書のサブタイトルは「海賊、そして海軍」である。海賊と海軍の区別はあいまいで、かなり融合している。地中海の一千年は海賊&海軍が横行した時代である。略奪や拉致という海賊行為が、非合法と合法のはざまで古代から近代まで連綿と続いていたことに驚かされる。

 塩野氏は魅力的な人物に焦点をあてて歴史を記述する作風で、本書にも魅力的は指導者や悪役が多く登場する。だが、それだけでなく、海賊行為の被害者となった多くの名もなき人々の境遇にも言及している。それが印象に残った。人類はつい昨日まで野蛮だったのである。それがすでに克服されたかどうかはわからない。