中央アジアの歴史を「トルコ化」「イスラム化」で解説2019年07月20日

『中央アジアの歴史:草原とオアシスの世界』(間野英二/講談社現代新書)
 40年以上前(1977年8月)に出た次の新書を古書で入手して読んだ。

 『中央アジアの歴史:草原とオアシスの世界』(間野英二/講談社現代新書)

 本書を読もうと思ったのは『シルクロードと唐帝国』(森安孝夫)で「シルクロード史観論争」の発端になった書とされていたからである。

 確かに著者は、シルクロードという東西交通路の存在が中央アジアの住民たちにどの程度意識されていたかは疑問だとの見解を述べている。だが、それは本書のメインストーリーとはあまり関わらない話なのでさほど気にならなかった。

 本書はトルコ民族史という視点で中央アジアの歴史を記述している。現在のトルコは小アジアの国だが、もともとのトルコ人は中央アジアの草原地帯の遊牧民である。現在の中央アジアの住民の多くもトルコ系である。北方騎馬民族の匈奴や鮮卑の民族系統は不明だが、6世紀に活躍した突厥、8世紀に活躍したウイグルなどはトルコ系だ。

 本書のメイン舞台はトルキスタンと呼ばれる中央アジアのオアシス地帯で、サマルカンド、ブハーラ、ホータンなど多くのオアシス都市がある。最近、私が興味をもったソグド商人の故地ソグディアナもそこに含まれるが、ソグド人はトルコ系ではなくイラン系である。

 著者はソグド商人の活動が最高潮に達したのは7~8世紀頃とし、次のように述べている。

 「ソグド人たちの商人としての活動にあまりに眼をうばわれて、ソグド地方を中心とする中央アジアの諸オアシス都市を、もっぱら商業都市、隊商都市と規定することはゆきすぎであろう。やはりオアシス都市の基本的な経済は、何よりも農業に依存していたと考えるべきであろう。」

 妥当な考えだと思う。本書の眼目はソグド商人が活動した時代ではなく、その後の9世紀以降である。この頃、中央アジアは「トルコ化」「イスラム化」という転換期をむかえる。「トルコ化」とは草原地帯の遊牧民だったトルコ人がオアシス地帯に進出して定住民化し、この地域でトルコ語が使われるようになったということである。このように整理して説明されると、複雑な中央アジアの歴史の見通しがよくなる。

 「トルコ化」「イスラム化」に焦点をあてているせいか、著者がチンギス・ハーンなどモンゴル系を見る目は辛辣に思われる。本書の真打はティムール帝国である。私はこの帝国についてよく知らなかったので勉強になった。ティムール帝国やムガール帝国はモンゴル系と思っていたが、トルコ化しイスラム化したモンゴル族が建てた帝国だそうだ。人間の集団は融通無碍に変化していくものであり、系統にこだわりすぎてはいけないと再認識した。