中央ユーラシア史の観点で「安史の乱」を解説2019年07月16日

安禄山:「安史の乱」を起こしたソグド人』(森部豊/世界史リブレット人/山川出版社)
 山川書店の「世界史リブレット」シリーズはワンテーマを100頁弱で解説した読みやす冊子である。その「安禄山」を読んだ。

 『安禄山:「安史の乱」を起こしたソグド人』(森部豊/世界史リブレット人/山川出版社)

 高校世界史の教科書だと安禄山や安史の乱に関する記述は1ページに満たない。それを薄い冊子で解説するのだから、かなりの詳細がわかる。サブタイトルが示しているようにソグド人としての安禄山に焦点をあてた記述になっている。

 最近読んだ『シルクロードと唐帝国』(森安孝夫)や『ソグド商人の歴史』(E・ドゥ・ラ・ヴェシエール)でもソグド人としての安禄山に言及していて、それがきっかけで安禄山への興味がわき、本書を読んだ。

 755年の「安史の乱」は唐衰退の契機となる8年にわたる大乱である。反乱を起こした安禄山が息子に殺害され、反乱を引き継いだ史思明も息子に殺害されるという訳のわからない展開だと感じていたが、本書でおよその経緯はつかめた。そして、思った以上に大規模な事変だと知った。

 本書では「反乱」の理由として、安禄山 vs 宰相・楊国忠の権力闘争とは別に複雑な地域間対立を指摘している。それは中央ユーラシア史という広い観点から「安史の乱」をとらえる見方である。

 安禄山の父はソグド人、母は突厥人である。「反乱」の資財はソグド商人のネットワークから得ていたそうだ。

 唐帝国の世界には多様な種族(「民族」と表現するのは適切ではない)がいて、その種族がそれぞれの思惑で入り混じって戦ったのが「安史の乱」である。唐は建国のときには突厥からの援助を受けたが「安史の乱」ではウイグルの援助を受けている。突厥復興を夢みる突厥遺民は安禄山側で参戦している。唐の側にはアッバース朝から弾圧されたアラブの軍勢までがパミール高原をこえて参戦している。

 著者は、「安史の乱」は7世紀以来のユーラシア全体の歴史変動を視野に入れなければ理解できないと述べている。その歴史変動とは、突厥第一可汗国の崩壊、薛延陀の滅亡、西突厥の衰亡、奚・契丹と唐の攻防、ウマイヤ朝からアッバース朝への交代などなどである。実にややこしい。