ソグド人への関心で読んだ『西域』2019年07月13日

『西域(世界の歴史10)』(羽田明/河出書房新社)
◎急にツアー参加を決めて…

 旅行会社のパンフで「幻のソグディアナ タジキスタン紀行8日間」というツアーを発見して惹きつけられた。『シルクロードと唐帝国』(森安孝夫)や『ソグド商人の歴史』(E・ドゥ・ラ・ヴェシエール)で興味を抱いたソグディアナという地名が目に飛び込び、思い切ってこのツアーを申し込んだ。出発までに約1カ月しかない。

 という事情で、中央アジアのにわか勉強の一環で次の本を読んだ。

 『西域(世界の歴史10)』(羽田明/河出書房新社)

 河出書房の『世界の歴史(全24巻)』は数十年前に安価な古書で入手したが、この巻は未読だった。刊行は1969年2月、かなり昔の本である。

◎西域のロマン

 「西域」という言葉には遥かなる遠方の辺境を思わせる独特の魅力がある。「君に勧む更に尽せ一杯の酒/西のかた陽関を出ずれば故人無からん」という王維の詩句が浮かび、シルクロードのロマンに重なる。

 西域とはタリム盆地(タクラマカン砂漠)からカスピ海に至る広大な地域で、本書は先史時代から19世紀までのこの地域の長い歴史を概説している。と言ってもメインの記述は、この地域がシルクロードの中枢として繁栄し西域と呼ばれていた時代である。

 西域の歴史を読めば、そこで活動していた多様な人々や多くのオアシス都市の様子がわかり、この地域を辺境ロマンの目で眺めるのは偏見で、文明の十字路と見るべきだとあらためて認識した。また、人間の集団とは西や東への大移動をくりかえすものだと知った。島国日本では体感しにくい事象である。

◎ソグド商人は文化の伝達者

 本書を読む動機のひとつはソグド人への関心である。ただし、1970年代以降にソグド人の墓や墓誌があいつで発見され、それからソグド研究が盛んになったと聞いたことがあるので、1969年発行の本書にはさほど詳しい記述はないのではと思っていた。

 予断に反して、本書はソグド人やソグド商人の活動をかなりのページを割いて記述している。ソグドが単なる商業民族ではなく、遊牧民族との共生関係を築いて軍事的にも強かったと指摘している。また、ソグド語が国際語として広く使われていたことを述べ、文化の伝達者としてのソグド人にも着目している。

◎ソグドの古代都市遺跡

 ソグド人の古代都市ペンジケント(ピャンジケント)遺跡を図解入りで詳しく説明しているのもうれしかった。来月予定のツアーではタジキスタンにあるこの遺跡が訪問先のひとつだが、ガイドブックにはほんの簡単な記述しかなかったのである。正倉院の御物にこの遺跡で発見された壁画を連想させるものがあるという興味深い指摘もある。

 本書のソグド人に関する記述を読み、日本の東洋史学の底力の一端に触れた気分になった。

◎蛇足

 本書の著者・羽田明氏(京大教授)は高名な東洋史家・羽田亨(京大総長、京大にはその功績を顕彰した羽田記念館がある)の長男で、親子二代の西域研究者である。「あとがき」によれば、本書全体の構想をたてたのは羽田明氏だが、約半分は別の研究者(山田信夫、間野英二、小谷仲男)が執筆したそうだ。

 本書付録の月報の「編集部だより」の次の一節が面白かった。

 「本巻執筆中に羽田先生が京大教養部長に就任されたため、執筆時間を学園紛争にとられたことや当社が経営上の躓きを経験したことから、きわめて厳しいスケジュールを先生に課す結果となった。」

 本書の発行日は1969年2月15日、全共闘まっさかりの時期で私は大学生だった。そんな頃、河出書房倒産のニュースを耳にしたと思う。本書の奥付を確認すると発行者は「河出書房新社」、1968年11月発行の『世界の歴史7 大唐帝国』までの発行者は「河出書房」、8巻以降は「新社」になっている。1960年代末の熱気と混迷を感じた。

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