懐かしき映画『新宿泥棒日記』……そして『由比正雪』を2019年06月30日

 Space早稲田で流山児事務所公演の『由比正雪』(作:唐十郎、演出:流山児祥)を観た。1968年に状況劇場が紅テントで上演した芝居の再演である。

 私が状況劇場の芝居を観始めたのは1969年12月の『少女都市』からなので『由比正雪』は観ていない。戯曲は当時ゾッキ本で古本屋に積まれていた『ジョン・シルバー』(唐十郎作、横尾忠則絵/天声出版)に収録されているので読んでいる。

 観ていないこの芝居に懐かしさを感じるのは、私の状況劇場初体験が大島渚の映画『新宿泥棒日記』だからである。横尾忠則主演のこの迷宮映画の影の主演が唐十郎で、花園神社の紅テントの芝居が映画の中に色濃く混入している。混入している芝居は『由比正雪』である。

 映画『新宿泥棒日記』で唐十郎に幻惑され、大学祭での状況劇場の歌謡ショーに圧倒され、紅テントに通うことになった。すべて半世紀前の1969年、私が二十歳の頃の事象である。

 今回の『由比正雪』では、流山児祥が「朝は海の中 昼は丘 夜は川の中 それは誰?」という唄を少しアレンジして披露したのがうれしかった。この歌は『由比正雪』の戯曲には出てこない(おそらく、それ以前の『アリババ』の挿入歌)が、『新宿泥棒日記』の牽引歌である。『由比正雪』でこの歌は聞けないだろうと思っていたので感激した。

 21世紀になって観た『由比正雪』は、半世紀前の舞台とはかなり違っているだろうと推察できる。「剣にとって美とはなにか」というセリフは今と昔ではウケが違うし、「由比正雪」に革命騒乱を重ねる趣向も60年代的だと思う。にもかかわらず、2019年の若い役者たちがこの芝居を演じていることに感動し、不思議な感覚におそわれる。唐十郎ファンだった私は、その芝居の射程がこれほど長いとは思っていなかった。

 考えてみれば、この1年半で私は唐十郎の芝居6本観ていて、その上演主体がすべて違っている(以下のリスト参照)。スゴイことだと思う。この先の半世紀も唐十郎の芝居は受容されていき、古典になるのだろうか。

 2018年1月『秘密の花園』(東京芸術劇場/演出:福原充則)
 2018年5月『吸血姫』(劇団唐組/演出:久保井研+唐十郎) 
 2018年12月『腰巻お仙 振袖火事の巻』(日本の演劇人を育てるプロジェクト/演出:小林七緒) 
 2019年2月『唐版風の又三郎』(シアターコクーン/演出:金守珍)
 2019年6月『蛇姫様』(新宿梁山泊/演出:金守珍)
 2019年6月『由比正雪』(流山児事務所/演出:流山児祥)

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
ウサギとカメ、勝ったのどっち?

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://dark.asablo.jp/blog/2019/06/30/9095299/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。