大黒屋光太夫を描いた「三谷かぶき」を観た2019年06月22日

歌舞伎座で6月大歌舞伎の昼の部、夜の部を観た。演目は以下の通り。

 昼の部
  寿式三番叟
  女車引
  梶原平三誉石切(鶴ケ岡八幡社頭の場)
  恋飛脚大和往来(封印切)
 夜の部
  月光露針路日本(つきあかりめざすにほん)

 昼の部と夜の部ではガラリと趣が変わる。いかにも歌舞伎らしい歌舞伎と三谷幸喜作・演出の「三谷かぶき」の両方を楽しめた。

 昼の部は目出たくて華やかな舞踊劇に続いて中村吉右衛門&播磨屋一門の「石切梶原」と片岡仁左衛門&松嶋屋一門の「封印切」という歌舞伎らしい見せ場芝居である。両方とも300両(約2000万円)という金銭がらみの話で、どちらも「石」や「金包みの封印」を「切る」という場面がクライマックスになっているのが面白い。吉右衛門の貫禄、仁左衛門の色気と姿の良さを感じた。

 夜の部『月光露針路日本』は大黒屋光太夫が主人公である。2年前に『おろしや国酔夢譚』(井上靖)と『大黒屋光太夫』(吉村昭/新潮文庫)を読んだので、大黒屋光太夫への関心はある。ロシアに漂着し、サンクトペテルブルグで女帝エカテリーナ2世に謁見して帰国を果たした人物である。

 『月光露針路日本』の原作は『風雲児たち』(みなもと太郎)という長編漫画だそうだ。私はこの漫画は読んでいない(みなもと太郎は懐かしい名前だ。ギャク漫画『ホモホモ7』はスゴかった)。

 光太夫を演ずるのは松本幸四郎で、市川猿之助や片岡愛之助などの他に幸四郎の父(白鸚)と子(染五郎)も出演する。

 市川高麗蔵(61歳)が可憐なロシア娘・アグリッピーナに扮して染五郎(14歳)の恋人を演じたのは驚いた。不気味・滑稽を通り越して何でも演じてしまう歌舞伎役者のスゴさを感じた。

 「三谷かぶき」は面白くてわかりやすい。義太夫節で「イルクーツク!」などと朗々と張り上げるので、私でも容易に聞き取れる。江戸時代の人にとっての歌舞伎や義太夫は、かくもわかりやすくて面白いものだったのであろうと想像した。

 『月光露針路日本』の舞台は船上とロシアの地で日本は登場しない。日本が見えてきた所で終幕になる。いい終わり方だと思う。だが、日本に帰還して江戸で取り調べを受けるあたりまでを舞台で観たいとも思った。

 光太夫が江戸に到達したのは寛政5年(1673年)、松平定信の寛政の改革の頃である。その前年には海国兵談の林子平が処罰され、翌年には写楽の大首絵が売り出される。仮に当時の情報流通事情がよく、オカミの統制も緩かったとすれば、光太夫の物語は絶好の同時代演劇の材料になっただろうと空想する。

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