『はじめての沖縄』は「めんどくさい」本2019年05月23日

『はじめての沖縄』(岸政彦/新曜社
 ある経緯で8年前に那覇市にマンションを取得し、年に数回は沖縄に行っている。ここ数年は年に3回10日ずつのんびり日常を過ごすだけで、マンションからの徒歩圏内以外に行くことはあまりない。そんな私が東京の書店の店頭で軽いエッセイ風の次の本を手に取った。

 『はじめての沖縄』(岸政彦/新曜社)

 沖縄の事情に詳しいわけではないが、数十回は訪問しているし沖縄関連の本も多少は読んでいる。『はじめての沖縄』というタイトルならパスしていいかなと思いつつパラパラ立ち読みすると、何やらややこしそうな本に思えて購入した。

 この本を読み始めたのは沖縄に出発する日の羽田空港に向かう電車の中だった。そして飛行機が那覇に着陸して市内に向かうモノレールの中で読み終えた。数時間で読了できる読みやすいエッセイなのだが、読後感はどんよりと重い。沖縄に向かう飛行機の中で読むのに適した本ではなかったかもしれない。

 著者は1967年生まれの大学教授・社会学者である。二十代半ばに観光客として沖縄を訪問して以来「沖縄病」にかかり、何度も沖縄を訪問し、それが高じて沖縄を研究する社会学者になったそうだ。

 社会学という学問がこの世の何もかもを研究対象にする恐るべき学問だとは承知している。「沖縄学」という言葉もあり、沖縄を研究テーマにする社会学者がいても不思議ではない。だが、現実にそんな若い(私から見て)学者が存在していることに軽い驚きを感じた。

 本書の序章のタイトルは「沖縄について考えることを考える」で、この屈折したトーンが本書全体を貫いている。著者の思考と感性の断片を紡いだエッセイ集で、つい引き込まれて読んでしまう。だが、著者自身が述べているように「めんどくさい」本である。

 必ずしも本書の内容を表しているとは思えない『はじめての沖縄』というタイトルは、著者の思考の出発点という個人的な意味を反映していて、このタイトルの付け方からしてややこしい。また、本書には著者が撮影した写真が多数収録されているが写真説明はない。写真もエッセイと同等にそれ自身として提示されていて、興味深い写真ではあるがややこしい。

 私自身は沖縄病にかかったことはなく、沖縄に関する通り一遍の知識と沖縄での日常に満足している。本書は、深く考えることのない日常に吹いてくる「めんどくさい」風のようでもある。沖縄に向かう飛行機で読むのにはいかがかと感じたのは、ややこしさが伝染してきそうだからである。

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