行き掛り上、ピーター・ブラウンの『古代末期の世界』を読んだが…2019年03月13日

『古代末期の世界:ローマ帝国はなぜキリスト教化したのか?』(ピーター・ブラウン/宮島直機訳/刀水書房)
 ブライアン・ウォード=パーキンズの『ローマ帝国の崩壊』を読んだ行き掛り上、彼が批判している「古代末期論」の本にも目を通しておこうと考え、次の本を読んだ。

 『古代末期の世界:ローマ帝国はなぜキリスト教化したのか?』(ピーター・ブラウン/宮島直機訳/刀水書房)

 1971年に原著が出た本書は、かなり有名な本のようだ。パーキンズは『ローマ帝国の崩壊』の冒頭で次のように言及している。

 「ローマ帝国の終焉についてはるかに穏やかな捉え方が広まっていることを知ったとき、私は驚きを感じたわけである。この動きの知的指導者は、すばらしい歴史家にして名文家のピーター・ブラウンである。彼は1971年に出版した『古代末期の世界』において、紀元200年ごろに始まり8世紀まで続く新しい時代としての「古代末期」(Late Antiquity)を、ローマ帝国の西半分の崩壊ではなく、活気に満ちた宗教的・文化的議論の時代として定義した。」

 また、古代ローマ史の歴史学者・本村凌二氏は『地中海世界とローマ帝国』(講談社/2007年)の中で「古代末期」という考え方に関して、本書を次のように紹介している。

 「大きな問題を提起したのは、その(ピーター・ブラウンの)『古代末期の世界』(The World of Late Antiquity )である。この本は一般向けの啓蒙書であったが、新しい歴史の見方にもあふれていた。それによれば200年から700年までの地中海世界は、変貌していく部分と、伝統の古典古代の文明を継続している部分との間の緊張関係のなかにあるという。その時代には没落とか衰退とかいう見方では理解できないものが少なくないのである。」

 事前に上記のようなコメントを読んでいたので、かなり期待して読み始めたのだが、私には意外と読みにくかった。宗教や新プラトン主義など、やや抽象的な事項をメインに扱っているので、私の頭で咀嚼しにくい部分もある。ぼんやりとではあるが「古代末期」において人間の精神世界に大きな変化があったということは了解できた。機会があれば再精読したい。

 「背教者」ユリアヌス帝に関する次の記述は面白かった。

 「もし彼が長生きしていれば、ローマ帝国の支配層はキリスト教を放棄していたことであろう。13世紀の中国でも、支配層は仏教を捨てて儒教に復帰しているからである。中国で仏教にしがみついていたのは、下層民だけであった。たとえユリアヌス帝時代にローマ帝国の下層民がキリスト教にしがみついていたとしても、支配層は本物の「ヘレネス」になっていたはずである。」

 意外だったのは、この時代に道路網が機能しなくなったこと、文字を読める人が減少したことについて本書でも言及している点だ。これらはパーキンズの『ローマ帝国の崩壊』において「文明の死」の傍証として述べられていることである。

 精神世界にウエイトをおいた『古代末期の世界』と経済にウエイトをおいた『ローマ帝国の崩壊』はすれ違っているようにも思えた。