『腰巻お仙 振袖火事の巻』に司祭のような大久保鷹が登場2018年12月16日

 Space早稲田という小さな劇場で『腰巻お仙 振袖火事の巻』(作:唐十郎、演出:小林七緒、プロデューサー:流山児祥)を観た。半世紀前、状況劇場が新宿西口公園で機動隊に包囲された紅テントでゲリラ上演した伝説の芝居である。

 今回の公演は「日本の演劇人を育てるプロジェクト新進演劇人育成公演 俳優部門」と銘打った芝居で、私の知らない若い役者が中心だが、一人だけ知っている役者が出ている。状況劇場の往年の怪優・大久保鷹である。彼が出演していると知って、ぜひこの芝居を観ようと思った。

 Space早稲田は中華料理屋の地下にある客席60の劇場で、客席と舞台との密接感がテント劇場に似ている。私は『腰巻お仙 振袖火事の巻』を観たことはなく、戯曲を読んだこともない。『腰巻お仙 振袖火事の巻』の新宿西口広場での初演は1969年1月、私が紅テントを観始めたのは1969年12月の『少女都市』からである。私はかの「特権的肉体論」が収録されている『腰巻お仙』(唐十郎/現代思潮社)を持っているが、この本に収録されている戯曲は「忘却篇」と「義理人情いろはにほへと篇」で「振袖火事の巻」は載っていない。

 そんなわけで初見の新鮮な気分で開幕を待っていた。そのとき、隣席の若い女性から突然声をかけられた。
「これの初演は御覧になりましたか」
 当方が爺さんなので半世紀前の舞台を観ていると思ったようだ。
「いいえ、観ていません。私が観たのは『少女都市』からです」
「すごいですね、『少女都市』を観ているんですか。私は2年前からです。唐さんの芝居を観るようになったのは」
 つい最近になって唐十郎の芝居を観るようになった若者がいることは、私にとっては驚きだった。
「あの頃って、みんな闘っていて、すばらしいですね。今はどうしちゃったんでしょう」
 彼女は、1960年代に憧れているようなことを言い、私は何ともこそばゆい気がした。

 そして芝居が始まった。冒頭、大久保鷹が登場し、機動隊に囲まれて新宿西口公園で強行上演したのが50年前だったことを力強く語り、そして異空間が幕開けした。大久保鷹は登場人物として演じながらも、冒頭とラストでは現代と50年前を架橋する司祭のようだった。

 この芝居、初見にもかかわらず既視感にあふれていた。若い役者の背後に麿赤児、唐十郎、李礼仙、四谷シモン、不破万作などのイメージがちらつくのは仕方ない。50年前、人さらいのように当時の若者たちを不思議な世界へ誘った状況劇場の魔力が今も有効かどうかはわからない。有効ならうれしい。