サイパンの歴史を盛り込んだ「サイパンの約束」2018年11月30日

 「座・高円寺」で燐光群の公演「サイパンの約束」(作・演出:坂手洋二、主演:渡辺美佐子)を観た。私は4年前にサイパンの戦跡を巡り、その感想をブログに書いた。懐かしきサイパンを扱った芝居なので観ようと思った

 主人公・晴恵(渡辺美佐子)はサイパン生まれで、楽しい少女時代の後に戦災に会う。このの芝居は、2018年になって晴恵がサイパンを訪れ、自分の人生を追体験する話である。作・演出の坂手洋二氏は義母をモデルにこの芝居を書いたそうだ。私の義母もサイパン生まれである。芝居の科白の中で義母の実家の商店の名が出てきたのには驚いた。

 状況設定は少し複雑である。晴恵の回想録を元にした映画を撮るため、撮影クルーが晴恵と共にサイパンを訪れ、現地のエキストラたちと共に撮影準備をしている、という設定である。閉鎖が迫ったホテルの一角にセットが組まれ、そこで芝居が進行する。虚実ないまぜの展開ができる秀逸な設定である。

 驚いたのは、実に多くの事象がこの芝居に盛り込まれていることだ。私がサイパンについて知っていることのほとんどすべてが盛り込まれている。もちろん知らないこともたくさん出てくる。ガラパンの繁栄、南洋興発と松江春治、軽便鉄道、南洋神社、米軍の上陸、タッポーチョ山を拠点の大場大尉らの抵抗、捕虜収容所での殺人事件などなど多彩である。

 サイパンには沖縄出身者が多く、晴恵も沖縄出身という設定になっているが、サイパンにおける内地出身者、沖縄出身者、チャモロ人、カナカ人の階層的差別意識もきちんと取り上げられている。

 この芝居で描かれているのは日本統治と戦災のサイパンだけではない。戦後、リゾート地として脚光を浴びながらもバブル崩壊後は衰退しつつある状況も提示している。映画のロケ地を閉鎖目前のホテルに設定しているのもなかなかの工夫である。

 何より感心したのは、86歳の渡辺美佐子がチャーミングに役を演じていたことだ。声もよく通る。シンプルな舞台装置に、十代の渡辺美佐子の写真を往年のガラパンの写真館の映像と重ねて投影すれば、より効果的だったのではと思った。