飛べないメジロ始末記2018年10月30日

 ベランダでカミさんが「キャー」と叫んだ。小鳥が死にそうになっているという。突然、空から落ちて来たそうだ。

 小さな鳥がわが家のベランダで仰向けになってピクピク動いている。そっと手で表向きにしたが、うずくまった姿勢でかすかに体を動かすだけだ。どうしていいかわからず、そのまま放置した。

 1時間ほど経って見に行くと、その場所にいない。あたりを見回すと、チョンチョンとベランダを歩き回っている。そのうち飛び立つだろうと期待した。

 しばらくたって見に行くと、その小鳥は仰向けになっていた。手で元に戻してやると、またチョンチョンと歩き出す。しばらく歩いて、羽根をはばたかせて飛ぼうとするとすってんとひっくり返って仰向けになる。そうなると自力では元に戻れないようだ。やっかいな小鳥である。

 よく観察すると、右の翼がはばたくだけで左の翼はまったく動かない。これではすぐには飛び去りそうにない。夕暮れも迫ってきた。仕方なくわが家で保護することにした。高さ15センチしか飛べないのだから鳥かごは必要ない。屋内のベビーバスに入れた。

 カミさんが図鑑で調べて、その小鳥はメジロだと判明した。わが家に鳥の飼育法の本はない。庄野潤三の『メジロの来る庭』という本はあるが、もちろん飼育教本ではない。ネットを検索すると、いろいろな情報が出てきた。メジロは捕獲や飼育が法律で禁止されているそうだ。にもかかわらず飼育法の記事もあるし、メジロの餌もいろいろ販売されている。

 ネットの情報をもとにミカンを与えるとよく食べる。とりあえず餌も注文した。ミカンをついばむ姿はかわいい。ベビーバスの中で落ち着いたメジロは無理にはばたこうとはせず、仰向けになることもない。

 通販で届いた餌はミカンに塗って与えた。しっかりミカンを食べるものの、いつになったら飛べるようになるかわからない。動物病院に連れていけばいいのだろうが、そもそも飼育禁止の動物である。

 メジロを保護して2日目、落ち着いて考えてみると、やっかいな小鳥である。餌は毎日与えねばならず、寿命は3~5年だという。メジロがいては旅行もできない。旅行中は人にあずけるとしても、違法行為に巻き込むことになる。

 どうしたものかと思案し、日本野鳥の会に相談しようと思いつき、そのホームページを見ると「よくある質問」に「けがをした鳥を保護したのですが、どうしたらよいでしょうか?」という項目があった。回答には、当面の緊急措置の解説に続いて「必ず各都道府県の野生鳥獣担当機関に連絡し、指示を仰いでください」とある。

 その回答に従って、東京都多摩環境事務所自然環境課鳥獣保護管理担当に電話を入れると、担当者が引き取りに来た。購入したばかりの餌も引き取ってくれた。引き取った野鳥は獣医の診断を受け、回復すれば保護した場所で放すそうである。

 飛べないメジロ一羽にもきちんと対応する行政にあらためて感心し、文明の力のようなものを感じた。わが家に3泊して引き取られて行ったメジロが回復して自然に還る日が来ることを祈っている。