いつの日か再読したい『薔薇の名前』2018年10月23日

『薔薇の名前(上)(下)』(ウンベルト・エーコ/河島英昭訳/東京創元社)
 未読のまま26年間本棚で眠っていた『薔薇の名前』を読んだ

 『薔薇の名前(上)(下)』(ウンベルト・エーコ/河島英昭訳/東京創元社)

 きっかけはEテレの「100分de名著」が本書を取り上げたからである。全4回を録画し、小説を読了したら観ようと思っていたが、本を手にする前に第1回だけ観てしまった。映画でおよそのスジは知っているのでいいかと思ったのである。

 この番組によれば、1980年に発表された『薔薇の名前』は全世界で5,500万部以上売れていて、大半の人が読み通すことができずに挫折しているらしい。私もその一人だった。

 ショーン・コネリー主演の映画『薔薇の名前』を観たのは30年近く昔である。 重厚陰鬱な中世の僧院の世界が印象的な映画で、「007」のショーン・コネリーが重厚で魅力的な老優に変貌しているのに驚いた記憶がある。

 その頃、何かの会合でこの作品が話題になり、私が「映画は観たけれど、小説を読んでいません」と言うと、ある人から「あれは映画だけじゃだめです。小説を読まなければ…」と強い調子で言われた。その人は私が尊敬する大先達だったので、小説も読もうと思った。しかし、読了できなかった。

 多くの人が挫折しているとテレビで聞き、26年前の大先達の言葉がよみがえり、今度こそは読み通そうと思った。

 そんな覚悟で読み始めると、想像したほどに読みにくくはなく、比較的短時間で面白く読了できた。中世キリスト教会の宗派の話などは把握しにくくて退屈する箇所もあったが、そんなところも何とか乗り越えて、蠱惑的とも言える世界に引き込まれて興味深く読み進めることができた。

 と言っても、本書の内容を十全に理解できたわけではなく、エーコの魅惑的世界を十分に堪能できたとは思えない。ついついミステリーの縦糸に牽引されて、さまざまな横糸の部分をすっ飛ばして読んでしまった気がする。

 この小説はホームズとワトソンの謎解き物語という仕立ての上に、書誌学と書物への偏愛、笑いの哲学、中世キリスト教史と異端審問、記号学などの要素が盛り込まれていて、メタ書物のような形になっている。

 読了後に思ったのは、いつの日か、多少の事前勉強をしたうえで、ゆっくりと時間をかけて再読したいということである。そのときには、縦糸と横糸だけでなくナナメの糸も絡んだ重層的な織物を堪能できればと夢想する。

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