やっと『三人吉三』を観た2018年10月18日

 先月に続いて今月も歌舞伎座の「昼の部」「夜の部」を通しで観た。今月は「十八世中村勘三郎七回忌追善」で、演目は以下の6本である。

 昼の部
  1. 三人吉三巴白波
  2. 大江山酒呑童子
  3. 佐倉義民伝
 夜の部
  1. 宮島のだんまり
  2. 吉野山(義経千本桜)
  3. 助六曲輪初花桜

 中村勘三郎の追善だから観ようと思ったのではなく、三人吉三が目当てである。仁左衛門の助六も観たいと思った。

 私が年に数回歌舞伎を観るようになったのは5年ぐらい前からで、現役で仕事をしていた頃はほとんど観ていない。まだ入門者なので未見の有名演目も多い。その一つが三人吉三だった。

 私の世代(1948年生まれ)にとって、三人吉三と言えば橋幸夫の歌謡曲『お嬢吉三』ではなかろうか。テレビやラジオでこの歌謡曲を繰り返し耳にしたのは1963年、中学3年のときで、舟木一夫の『高校三年生』がヒットした年である。

 当時、青春歌謡は好んで聞いたが『お嬢吉三』はアナクロ歌謡なので関心外だった。しかし、軽やかなリズムの名調子を何度も耳にするうちに、意味がわからないままに歌詞の断片は頭の底にこびりついた。

 久々にネットでこの歌謡曲を聴いてみて、なかなかいい歌だと思った。4番までの歌詞を丁寧に聴いて、大川端庚申塚の場のスジ書きを端的簡潔に表現しているのに感心した。舞台が目に浮かぶ歌である。

 今回初めて観た三人吉三は、お嬢吉三が中村七之助、お坊吉三が坂東巳之助、和尚吉三が中村獅童という若い取り合わせで、名調子の科白は心地よく、役者の姿も美しい。橋幸夫の歌謡曲のイメージを半世紀以上経って実見できたという感慨がわいた。

 夜の部最後の演目、仁左衛門の助六も堪能できた。昨年春に海老蔵の助六を観ているので、この歌舞伎十八番の有名演目はやっと2度目である。海老蔵のときは「助六由縁江戸桜」という演題だった。今回の演題は「助六曲輪初花桜」、この芝居の題は主演役者の家によって変わると初めて知った。不思議なしきたりがある所が歌舞伎の面白さである。