カミュの『誤解』は、やはりカミュ2018年10月14日

 新国立劇場小劇場でカミュの『誤解』(演出:稲葉賀恵、出演:原田美枝子。小島聖、水橋研二、他)を観た。同じ劇場で8月にサルトルの『出口なし』を観たばかりだ。サルトル、カミュと続き1960年代にタイムスリップした気分である。

 と言っても初見の芝居なので懐かしさを感じたわけではないし、自分が若返った気がするのでもない。時代のうねりには大きな周期がある。あの頃に求められていた何かと似た何かの意義が大きくなりつつあるのかもしれない。

 戯曲『誤解』はかなり以前に読んだが詳細は失念している。ダールばりのブラック・ユーモア(ホラー)的プロットだけが印象に残っていた。今回の舞台を観て、「哲学的」とも言える長科白が多いのが意外だった。当然ながら、ダールではなくカミュの世界である。年月とともにわが頭からはカミュ的難解な部分が蒸発し、ダールだけが残留していたようだ。

 ナチス占領下のフランスでカミュが執筆したこの芝居の舞台は陰鬱な田舎町である。そこで小さなホテルを営んでいる母と娘は自分たちの住む世界に絶望的な閉塞感を抱いている。そして、海に面した南国への脱出を夢見ている。だが、その夢がかなえられることはない。

 救いも神もない状況を呈示した芝居である。それでも、登場人物たちは目いっぱいに自身を語る。その大いなる語りこそが人間が生きる営みであり、脱出口なのかもしれない。原田美枝子の疲れた母の好演、小島聖の突っ張る娘の熱演を眺めながら、そんな考えが頭をよぎった。

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