『年刊日本SF傑作選』は異世界のオンパレード2018年09月29日

『年刊日本SF傑作選:プロジェクト:シャーロック』(大森望・日下三蔵編/創元SF文庫)
 昨年(2017年)発表された短編SFの傑作を集成したアンソロジーを読んだ。

 『年刊日本SF傑作選:プロジェクト:シャーロック』(大森望・日下三蔵編/創元SF文庫)

 この巻が11冊目(つまり11年目)という息の長い傑作選だが、私がこの傑作選を知ったのは昨年の『年刊日本SF傑作選:行き先は特異点』である。昨年に引き続いて今年の傑作選も入手したのは、齢69にして同時代との異和を甘受して自分自身が面白いと思うものだけに手を出したいと思いつつも、現在のSF状況を多少は把んでおきたいという卑俗な未練があるからだ。

 このアンソロジーには17編(内1編は漫画)が収録されている。編者の大森望氏が序文で述べているように、収録作家の世代の幅は広い。かつて私が同時代意識で読んだ収録作家は筒井康隆、眉村卓、横田順彌、山尾悠子、新井素子の5人で、これらはSF作家第一世代から第三世代にあたるそうだ。現在の新鋭は第六世代になるそうで、第一世代とは半世紀離れている。祖父母と孫だ。

 私などは第一世代の作品に最も引き込まれ、第二世代、第三世代の奇想や軽快に「これが新しさなのか」と戸惑いつつ感嘆した読者である。その後の第四世代以降がどうなっているのかは、最早よくわからない。

 そんな読者なので、既知の第一世代から第三世代の作家の作品は安心して読めた。第四世代以降の作家の作品も充分に楽しめた。どの作品も面白い。ただ、その面白さはかつて私が若い頃ににSFに感じたセンス・オブ・ワンダーとは微妙に異なる。当方が年老いたせいもあり、ワクワクドキドキ感がない。決定的に面白い作品には出会えなかったとも言える。

 このアンソロジーは異世界のオンパレードで、さまざまな異世界に圧倒された。昔のSFも異世界を描いていたが、いま思うとそれは日常を引き摺った異世界だった。それ故に「段差」の面白さを感じられた。新しい作家たちの描く異世界は何か吹っ切れてしまった異世界であり、へんな言い方だが、日常のような異世界である。そんな多様な異世界を垣間見ることができたのは収穫である。それでよしとする。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
ウサギとカメ、勝ったのどっち?

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://dark.asablo.jp/blog/2018/09/29/8966679/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。