ビッグデータ時代の処方箋を示した『アマゾノミクス』2018年09月16日

『アマゾノミクス:データ・サイエンティストはこう考える』(アンドレアス・ワイガイド/土方奈美訳/文藝春秋)
 われわれがいま生きているSNSの時代、それがどんな世界なのかを把握できる一書を読んだ。
 
 『アマゾノミクス:データ・サイエンティストはこう考える』(アンドレアス・ワイガイド/土方奈美訳/文藝春秋)

 著者はアマゾンの元・チーフサイエンティストで、今日のアマゾンの基礎を作ったデータサイエンスの世界的権威だそうだ。そんな著者の経歴から『アマゾノミクス』という邦題になったのだろうか。原題は『DATA FOR THE PEOPLE:How to Make Our Post-Privacy Economy Work for You』で、この方が本書の内容を的確に表している。

 著者は序章の末尾で「個人の、個人によるデータは、個人のためになりうる」と宣言している。「個人」を「人民」としたいところだが、それでは少しニュアンスがズレる。翻訳の工夫を感じる。

 日本では2005年の個人情報保護法施行以来、個人情報保護についていろいろ語られているが、著者は次のように明快に述べている。

 「過去100年にわたり、われわれはプライバシーを大切にしてきたが、そろそろそれが幻想にすぎないことを認めるべきだ。(…)いまや時代は変わった。(…)プライバシーの幻想に浸り、過去のルールが未来もわれわれを守ってくれると期待するより、今日の状況と未来の可能性を見すえた新たなルールを作るほうがいい。」

 本書には「デジタル痕跡」という言葉が出てくる。インターネットの利用者は多様な「デジタル痕跡」をネットに残し、「データ企業」はその大量の「デジタル痕跡」を蓄積してさまざまな活用をしている。それは止めることができない時代の流れであり、ネット社会発展の実態である。

 そんな時代にあって「DATA FOR THE PEOPLE」を実現するには六つの権利(データにアクセスする権利、データ企業を調べる権利、データを修正する権利、データをぼかす権利、データの設定変更の権利、データを他の企業に移す権利)が必要だ、というのが著者の主張である。

 本書はバラ色の未来や灰色の未来を描いているのではない。この先の時代を生き抜く処方箋を示した諦観の本のようにも見える。

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