『天声人語』書き写しという夏休みの宿題2018年08月20日

『深代惇郎の天声人語』(深代惇郎/朝日文庫)、『竹内政明の「編集手帳」傑作選』(竹内政明/中公新書ラクレ)
 中学3年の孫娘が塾の先生から夏休みに『天声人語』の書き写しをするように言われたと聞き、次の2冊を読んだ。

 『深代惇郎の天声人語』(深代惇郎/朝日文庫)
 『竹内政明の「編集手帳」傑作選』(竹内政明/中公新書ラクレ)

 書き写すのは日々の新聞のコラムなので、過去のコラムを集めたこの2冊と宿題に直接の関係はない。これらのコラム集に、中学生の文章教材にしたいコラムが何編ぐらいあるか、確めたくなったのである。

 『深代惇郎の天声人語』は早世した朝日新聞の名文記者深代惇郎氏の1973年から1975年のコラムの選集である。近年は読売新聞の竹内政明氏のコラムの評判が高い。『竹内政明の「編集手帳」傑作選』は2004年から2014年のコラムの傑作選である。

 過去の新聞1面コラムをまとめて読んで、まず感じたのは1面コラムはナマモノであり、時日が経過すると率直には味わえないということだ。歴史文書としての面白さはあっても、文章のお手本になり得る普遍的面白さがあるのは1割以下だと思えた。

 とは言っても、やはり1面コラムは読みやすくて、つい引き込まれてしまう。中学生の国語教材に適切か否かなどを念頭におかなければ、興味深く楽しめるものが多い。笑ったりうなったりもする。

 かなり以前に読んだ『大人のための文章教室』(講談社現代新書)で、著者の清水義範氏が素人は新聞1面コラムの真似をするなと指摘していたのを思い出した。読み返してみると次のように書いてある。

 「あれは実はアクロバット的な文章で、へたすると爺さんの世迷言のようになる。歳時記と、偉人のエピソードと、枯淡の心境とをシャッフルして、十行ごとに話が変わっていき、仙人の独白にたどりつくという文章なのだ。(…)あんな大技に、一般人は挑戦しないほうがいいと思う。」

 至言であり、同感である。新聞1面コラムは興味深く読めて楽しめばそれで十分である。『天声人語』書き写しが新聞を楽しく読む習慣につながればいいと思う。