「知らない」ということを知ったつもりになるという錯覚2018年08月04日

『知ってるつもり:無知の科学』(スティーブン・スローマン、フィリップ・ファーンバック/土方奈美訳/早川書房)
 タイトルに惹かれて次の本を読んだ。

 『知ってるつもり:無知の科学』(スティーブン・スローマン、フィリップ・ファーンバック/土方奈美訳/早川書房)

 著者の二人は米国の認知科学者だ。本書に接するまで「認知科学」という言葉に馴染みがなかった。人間の知性の働きを研究する学問だそうだ。本書を読んだ印象では、心理学や脳科学などをベースに自然科学と社会科学のまじわる領域を研究する学問のようだ。

 人間はおのれが自覚している以上に無知であり、物事を知っていると思っているのは錯覚である、というのが本書の指摘である。人間が存外無知であるにもかかわらず人類は複雑な装置や仕組みを作り出してきた。人間は認知的分業する動物で、人類が数々の偉業を達成できたのは「コミュニティの知」の力によるそうだ。言われてみれば、そんな気がする。

 人間の知性の働きにコミュニティが大きくかかわっているという指摘は興味深い。人間の考えは所属するコミュニティの影響を大きく受けているので、個人の考えを変えるのは容易ではない。考えを変えるということはコミュニティからの離脱につながる重大事になりかねない。これはかなり大きな課題だ。

 コミュニティの知にはプラスもマイナスもあり、「グループシンク(集団浅慮)」という現象も紹介されている。ネットの共鳴箱効果もその一例で、これも現代的な課題だ。

 本書は自分が無知であることを認識せよと主張しているようだが、無知である人間が「知ってるつもり」の錯覚におちいるのは、そもそも人間がそのようにできているからであり、それが進化の結果だとも述べている。無知であることを自覚しつつ錯覚に自身をゆだねる---結構ややこしい生き方になりそうである。

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