『破滅の王』は細菌兵器テーマの歴史小説2018年07月07日

『破滅の王』(上田早夕里/双葉社)
 上田早夕里の『破滅の王』を読んだ。

 『破滅の王』(上田早夕里/双葉社)

 オビに大きく「直木賞候補作」とある。この作者の『華竜の宮』(日本SF大賞受賞作)を数年前に面白く読んだ記憶があり、SFが直木賞候補作になったのかと興味がわいた。

 脳の硬化抑制のため、たまには最近の同時代小説も読まなねば、との気分もあり本書を手に取った。

 第2次大戦時の細菌兵器をテーマにした小説で、SFと言うよりは歴史小説だ。正面からサイエンスを扱っているのでSFと呼べるかもしれないが。

 満州事変の頃から終戦までの上海が主な舞台で、当時の事をよく調べて書いていると感心した。戦時中の上海の研究室の雰囲気が伝わってくる。ただし、歴史素材に足を取られて、物語のテンポが鈍くなっている感はある。

 中盤の盛り上がりで面白くなり期待がふくらんだが、終盤は少々物足りなかった。

 本書はもちろんフィクションである。いかにも史実を踏まえているように見せる虚実の混ざ方が巧みだ。物語が終わった後の「補記」も効果的で秀逸である。

 しかし、もっと「虚」にウエイトを置いたSF作家らしいはじけた展開になれば、より面白くなったのでは思う。

 この小説が直木賞を受賞するかどうかはもちろん不明だ。私としては落選作の方が面白いと感じることもある(『また、桜の国で』『暗幕のゲルニカ』など)。だから、どちらでもいいではないかと思える。

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