台湾の歴史と現状がこんなに「面白い」とは…2017年02月03日

『台湾:四百年の歴史と展望』(伊藤潔/中公新書)、『台湾とは何か』(野嶋剛/ちくま新書)
◎新書2冊で台湾入門

 私の亡母は日本統治下の台湾生まれで、小学低学年まで台湾で過ごしたそうだ。子供の頃、母や祖母から台湾の話を聞かされた記憶はあるが、台湾への関心が高まったわけではない。高校日本史と新聞ナナメ読みで得た断片的な知識しかない。

 ふと、自分が台湾についてあまり知らないことに気づき、台湾について少し勉強しようと思いたち、次の2冊の新書を読んだ。

 『台湾:四百年の歴史と展望』(伊藤潔/中公新書)
 『台湾とは何か』(野嶋剛/ちくま新書)

 この2冊、どちらも抜群に面白い。日本の隣、沖縄のすぐ先にこんなにも興味深い「国」が存在しているのに、今までその「面白さ」に気づかなかった。

◎中国や日本との絡む宿命

 『台湾:四百年の歴史と展望』は20年以上前の1993年8月初版で、私の読んだのは2016年9月の22版、ロングセラーだ。著者は台湾で生まれて日本に帰化した歴史学者、本書は16世紀の大航海時代から李登輝による民主化進展までの台湾の歴史を記述している。

 台湾の歴史が興味深いのは、それがひとつの島国の歴史ではなく、隣接する中国や日本と絡んだ複雑な様相を呈するからだ。

 中国の王朝が明から清に替わる頃の台湾の状況が、第二次世界大戦終結後、毛沢東に敗れた蒋介石が中華民国ごと逃げ込んできたときの様子と重なり、似たようなことがくり返されるこの島の宿命を感じた。

 日本の敗戦で日本統治が終わってから後の台湾の歴史は圧巻だ。一通りのことは知っているつもりだったが、こんなにもいろいろな事象が絡み合っていたとは知らなかった。その歴史を「面白い」と言うのは不謹慎かもしれない。大変だったと言うべきか。

 本書の「あとがき」で著者は次のように記述している。

 「小著は12章からなり、「終章」はない。台湾を故郷とする私の願いを込めてのことであり、台湾が永遠にこの地球に在りつづけることを、心から希求してやまないからである。」

 台湾ならではの切実なメッセージだ。

◎台湾の玄妙な現状が把握できる『台湾とは何か』

 『台湾:四百年の歴史と展望』の記述は、李登輝が登場して民主化が進む1990年代の初めで終わっている。その後の台湾の状況を描いたのが2016年5月刊行の『台湾とは何か』だ。著者は元朝日新聞記者で、台北支局長も務めた台湾通だ。

 蒋介石の息子・蒋経国の死去によって1988年に総統になった李登輝は、1996年には初の総統直接選挙を実施して総統に当選し、2000年まで総統を務める。その後の総統は、陳水扁(民進党)が8年、馬英九(国民党)が8年、2016年からは蔡英文(民進党)と政権交代をくり返している。

 本書は台湾の現代史をふり返りつつ台湾の現状を中国・日本との絡みを交えて詳しくレポートしている。台湾の民主化進展と中国の経済発展、そして必然的な世代交代によって台湾の状況が昔とは大きく変化している。だが、将来展望はあくまで「現状維持」というのが微妙だ。台湾に住む人のアイデンティティの分析も興味深い。「例外」と「虚構」を現実とせざるを得ない事情は何とも不思議で複雑で玄妙な現実である。

 『台湾:四百年の歴史と展望』とは異なり『台湾とは何か』には「終章」がある。そのタイトルは「日本は台湾とどう向き合うべきか」だ。著者が本書で告発しているのは、日本人の多くが台湾に関して「思考停止」になっている点だ。私自身にも思い当たるふしがある。

◎失念していた隣国

 先日読んだ小説『また、桜の国で』はポーランドの近代史をふまえた物語だった。ポーランドは地図上から何度も消えた国だ。ポーランドに限らず、大国と地続きで隣接するヨーロッパの国々は歴史の動きに翻弄されて大変だなあと思い、島国わが日本は何はともあれハッピーだったなどと感じた。

 2冊の新書を読んで、はるかヨーロッパにまで思いを馳せなくても、すぐ隣国に大国や歴史の波に翻弄されている島国があることに気づき、それを失念したことを反省した。

 日本史を単一民族の歴史と捉えるのではなく、樺太や千島列島から沖縄、台湾までを視野に入れて展望しなければ、21世紀の世界のありようも見えてこない。

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