『バブル:日本迷走の原点』は同時代の歴史書2017年01月28日

 『バブル:日本迷走の原点/永野健二/新潮社』
 高橋是清の自伝と伝記に続いて『バブル:日本迷走の原点/永野健二/新潮社』を読んだ。明治から昭和初期までの金融経済史から一気に1980年代の金融経済史に飛んだわけだが、経済の側面から歴史を眺める面白さが共通している。

 営々とくり返される人々の様々な活動に触れ、いつの時代でも将来を予見するのは難しいという当然のことをあらためて感じた。もちろん正しい予見や的確な判断をする人は存在するが、それが同時代に受け容れられないケースが多い。後世の目が必ずしも時代を正しく把握できるわけではないとしても、時間が経過しなければ見えてこない事象は多い。

 『バブル』の著者はバブルの時代の経済事件を最前線で取材してきた元日経新聞記者だ。本書の指すバブル期とは1980年代後半で、1989年末には日経平均株価は38,957円という史上最高値をつけ、1990年になると株価は急落する。続いて高騰していた地価も下落し、破綻する企業があい継ぎ、不良債権を抱えた金融機関の再編が進む。

 著者は1949年生まれだから30代後半にバブル期を過ごし、40代になってバブルがはじける時代を体験している。本書にはさまざまな経済事象の現場に立ち会った人の迫力と面白さがある。同時に当時の経済事象を鳥瞰的に検証・総括する冷静な視点もあり、新聞記事の面白さと歴史書の興味深さを合わせた本だ。

 本書の眼目は「失われた20年」をもたらしたバブルの真犯人の追求である。著者はその真犯人を経済構造の変革を先送りにしてきた大蔵省の官僚たちと銀行の経営者たちだとしている。その主張には共感できるが、著者の言う「経済構造の変革」のイメージがいま一つ把握しきれなかった。

 私は著者とほぼ同世代なので、社会人として最も多忙な時期にバブルとバブル後を過ごしてきた。金融や不動産とは縁のない業界にいたせいか、バブルを実感した記憶は薄い(その後のITバブルは身近に観たが…)。だが、本書を読むと当時のいろいろな経済事件が思い起こされ、あらためて「そうだったのか」と事象の意味を認識することが多かった。

 本書で、同時代の事象を歴史的視点で把握することの難しさと面白さを感じた。

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