渋谷で21世紀の『メトロポリス』を観る2016年11月19日

 大昔のSF映画『メトロポリス』が舞台化されると知り、どんな芝居になるだろうとの興味がわいた。で、11月18日、渋谷のシアターコクーンで『メトロポリス』(演出・美術:串田和美、出演:松たか子、森山未來、他)を観た。

 映画『メトロポリス』を観たのはずいぶん昔で、その内容は失念していて、あの不気味なロボットの登場シーンだけが印象に残っている。スターウォーズの金ピカロボットC-3POの先祖のようなピカピカに輝く妙に艶めかしい女性ロボットだ。

 観劇の前に500円のDVDで映画『メトロポリス』を購入し、内容を確認した。ナチス台頭前夜の1927年に制作されたドイツの無声映画で、チラツキの多いモノクロ画面は不鮮明ではあるが、大がかりなセットを多用した約2時間の大作なのにあらためて驚いた。レトロな未来都市の映像が秀逸だ。

 90年前のこの映画が21世紀の舞台でどのような形で甦るのだろうと期待して劇場に足を運んだ。松たか子がヒロインとアンドロイドの二役を演ずる舞台は、映画をふまえた展開に舞踏演劇がミックスし、60年代のアングラ演劇的雰囲気も加味された面白い芝居だった。懐かしいレトロ感と21世紀的終末観が融合した世界を感じた。また、松たか子という女優にアンドロイドのような雰囲気があることに気付いた。

 渋谷のBUNKAMURAで上演されたこの芝居には、渋谷のスクランブル交差点と東日本大震災の津波のイメージと人類の破壊衝動が反映されていて、そこに90年前の映画を21世紀に舞台化した意味があると思った。

 観劇の後、上演パンフレットを読んで知ったのだが、映画『メトロポリス』には原作の小説があり、中公文庫で翻訳されている。脚本を書いたテア・フォン・ハルボウは監督フリッツ・ラングの妻で、元女優だ。映画公開と同時期に発表された小説『メトロポリス』は映画より広がりのある内容で、今回の芝居のベースは映画ではなく小説だそうだ。

 興味深いのは、映画『メトロポリス』公開後の監督・脚本家夫妻の運命だ。監督のラングはユダヤ人で、ナチス政権になったドイツからアメリカに亡命する。夫妻は離婚し、ドイツに残ったハルボウはドイツ映画台本作家連盟会長になりナチスに入党したそうだ。詳しいことはわからないが、フィクションを超えた人の運命のドラマを感じざるを得ない。